COVID-19地域差の謎

2020年8月11日 | By 縄田 直治 | Filed in: データの利活用.

いまは検査を拡大して陽性者を片っ端から隔離すべきだという議論と、感染は一定割合で広がっているのだから、予防においても対処においても重症者とその予備軍を重点的にケアして、その他は通常の病気のように扱いなさいという議論とに二分されています。正体がよく分かっていない新型コロナですので、よくよく研究され知見をためていかなければならないのですが、そのためにもデータは大事ですね。そしてデータを見ていると大きな謎が見えてきます。それは地域差です。

地域と言っても世界から市町村まで色々なレベルがあるのですが、いずれのレベルにあってもデータが地域によって顕著に違って出ていることにもっと注目すべきです。この違いを生み出している因子は何なのか、とても興味がありますし、またそれを見つける分析の方法がないものかと期待もするわけです。大きく分ければ人間側の因子(生物的なもの)と、環境側の因子とがあります。

人間が免疫力を持っていれば、感染、発症しにくくなることは考えますが、日本人が特殊な抗体を持っているのかどうかは定かではありません。環境因子としては、ウィルスが人間以外の「何か」を媒介に広がっていて、その「何か」が多いか少ないかが国や地域で異なるという考え方です。三密によって構成される「何か」と言って良いかもしれません。

単純に考えれば人口に比例して感染者や死亡者は増えそうな予想をしますが、16億人の人口を擁する中国は、早々にコロナ撲滅を宣言していますが、その2割の2.4億人を人口を擁する米国はいまだ感染者も死亡者も落ち着きません。

日本の状況はこれらの国々に比べればまだ被害は桁違いに小さいのは明白です。ただ、この理由が何によるものなのかがとても謎です。日本人の日常的な生活習慣(食文化、手洗い、靴を脱いで家に入る、自分の箸や茶碗を使う、身体を接触する挨拶をしないとか)や民族的な遺伝子、気候の違いなど様々なファクターが考えられるわけで、ここが不思議な地域差です。一時期は、BCG接種が功を奏しているという話もありましたが最近は言われなくなりました。ノーベル賞受賞者の山中教授は「ファクターX」と称して「何かがありそう」と言われています。

その日本国内においても、東京都を筆頭に大阪、福岡などの大都市圏(周辺県を含む)の陽性の広がりがありますが、岩手県や島根県のようにほとんど陽性者の広がりを見せていない県もあります。田舎は感染が少ないとは単純には考えてしまいますが、人口の絶対数や人口密度に比例するという考え方も当然にあり得ます。一方で、例えば北海道では比較的早い時期に陽性者が増え独自に緊急事態宣言が出ました。都道府県単位よりも、その地域でいわゆるクラスター(札幌のような)が形成されやすい場所かどうかが大きく影響しているらしいことは当初から言われています。

東洋経済ONLINE新型コロナウィスル国内感染の状況
 https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/

東京も興味深い傾向があって、一般には新宿や池袋のような繁華街を持つ区がリスクが高いと信じられていますが、必ずしもそうではありません。例えば渋谷区よりは世田谷区のほうが明らかに陽性者は多いです。また、都下を見ると、町田市、八王子市、西東京市が顕著に陽性者が多いのですが、繁華街があるという意味では、吉祥寺のある武蔵野市や立川市などが低く感じてしまいます。

東京都報道発表新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(第655報)

勤務地や居住地によってどこで集計されるのかという問題はありますが、いろいろ謎を秘めているデータです。ということはこの謎を解くと感染の広がりのヒントが得られるわけで、今後、どのようなデータが開示されるのか期待しておきましょう。

私は、何となくですが一つの仮説を持っています。これは世界に当てはまるものではありませんが、日本では「鉄道の生活利便性」が一つのファクターではないかと。

鉄道の利便性は、乗降客数、通勤定期利用率とか輸送頻度や輸送能力、職場や自宅との距離などいろいろな条件で説明できますが、因果関係としては、移動に鉄道が使える人は自家用車を使わない、(飲み屋なども多いので)飲みに行く機会が増える、その他イベントも多くウィルスに暴露しやすい、移動が便利なため広がりやすい、という自己増殖サイクルが形成されているのではないでしょうか。

まずは通勤通学への鉄道の利用者と感染者の数を分析してみればいいのでしょうか。但し、分析前から分かっていることですが、鉄道が原因というわけでは決してなさそうです。もちろん皆無とは言わないにしても、仮に鉄道が原因なら首都圏はもっと感染者が増えて既にパンデミックになっていることでしょう。

(9月18日加筆)

そしてもう一つの仮説として、検査能力の地域差が現れているのではないかということです。東京は住所地と勤務地などが違う人がむしろ多いため、データは住所地で集計されます。必ずしも住所の近くで検査しているとは限りませんが、動かないことを前提にする検査なので、わざわざ遠くで検査を受けることもないでしょう。陽性数が例外的に大きい新宿や世田谷は区独自の検査態勢を準備していると言われています。八王子市は大きな地域を統括する保健所があります。

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