AIによる不正検知と監査

2022年12月9日 | By 縄田 直治 | Filed in: 統計.

特定のアルゴリズムを使った不正検知の方法は、例えばクレジットカードの不正利用の検出などで90年代あたりから使われています。取引頻度が急激に増加する、金額の限度額を超えるなどの単純な検出や、先程東京で買い物した人が一時間後にニューヨークでカードを使うと不正利用の可能性を疑うなど、使い途はいろいろと考えられます。

不正検知は一般に定常状態から外れたものを何らかの方法で探し出すことから始まります。できる限り不正が実行されたタイミングで検知することが求められますが、欲を言えばその兆候が掴めれば事前に警戒レベルを上げるなどの対応もできます。

最近の映像解析技術はとても進化していて、コンビニエンスストアなどで万引きを目的に来店した客を入口で検知する技術や、棚から物を取る時に買い物目的と万引き目的を区分して警戒させることなどができるようです。これも、人の動きを大量に観測すると緊張している人は身体の揺れ方が少し違うとか、視線の置き方が周囲への警戒を表しているとか、いろいろと判別できるようです。つまり人間が見たら「なんか変だな」という根拠の言えない曖昧な感覚をデータとして認知しているところに、映像解析の技術の凄さを感じます。

いずれも何らかの定常状態から外れた動作や挙動をデータから掴むという点が方法としての共通しています。

翻って組織で実行される不正はこのアイデアを使って検知できないものでしょうか。組織内の内部統制手続のフィルタを突き抜けて実行される不正は、これまで職人のような監査人の勘と経験に頼って検出してきました。

これまでアナログだった取引関係の記録が電子データに置き換わるdigitizationが進むにつれて、データは日々増加してきています。一方で監査人は不足しています。監査手続にはデジタル技術を用いる必要があるのは自明の理ですが、その人材も不足しています。つまり取引不正検知は今すぐにでも必要な技術です。

この技術が実現されれば通常のエラー検知や税務調査で指摘されそうな取引の検知など、応用範囲は拡大します。結果的に安心して取引や決算ができる仕組みとして定着すれば、経営者は無用なストレスから解放され監査や調査の社会的コストも下がることが期待できます。

注意したいのは、不正検知は不正行為の検知ではなくあくまでも可能性への気付きを支援している点です。つまり疑うべきものを人の勘と経験に頼るのではなく機械的に検出しつつ、実際の判断や予防対策のところに人間の叡智を注ぎ込もうという発想です。

不正検知ツールを使いこなせるようになれば、監査人の役割は大きく変わることは間違いありません。

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