COVID-19の濃厚接触

2020年8月6日 | By 縄田 直治 | Filed in: データの利活用.

毎日、新型コロナのデータ(東京都)を追いかけして分かっているのは、陽性者の拡大は明らかに検査数の拡大によるものなので数よりもむしろ陽性率を見るべきなのですが、陽性率の意味は検査対象の選定の方法によって大きく変わるので、その解釈のためには検査対象をどのようにどれだけ選んだのかを開示してほしいとは、前回のブログに書いたとおりです。さらには、検査結果についても濃厚接触者の陽性率を発表してほしいです。というのも、下の図(数字はダミー)を見ると分かるようにいまの報道のように「今日の感染者は80人です。そのうち、60%の48人は濃厚接触者でした」というのは、濃厚接触でも陰性の人の割合(図でA)がわからないからです。図のXの人数つまり検査対象とした濃厚接触者の数が分かれば、他の部分は計算できるのです。そして、濃厚接触の危険度がよくわかります。

濃厚接触者それ以外検査計
陽性483280
陰性AB920
検査計XY1000

いま3つのケースを想定します。ケース1は濃厚接触者を中心に検査をし(X=928)て有症なども含む非濃厚接触者も検査(Y=72)がありそのデータを加えて発表した場合、ケース2は濃厚接触者とそうでない人の陽性率が同じ(例では8%)場合、ケース3は濃厚接触よりも無作為に検査を拡大(X=160, Y=840)した場合です。なお濃厚接触者かどうかは行動の自主申告によっているようですから、濃厚接触者外であっても実際は何らかの濃厚接触者とされるべき人が含まれている可能性があります。なお、東京都の発表する検査数には「陰性確認のために行った検査の実施人数は含まない」という脚注がありますので、濃厚接触以外に何らかの陽性可能性を想定しての検査であることは確かですが、有症以外に思いつきません。

ケースケースケース
濃厚以外濃厚以外濃厚以外
陽性4832804832804832
陰性88040920552368920112808
9287210006004001000160840

ケース1は、明らかに濃厚接触者の陽性率(48/880)よりもそうでないグループの陽性率(32/40)が高いので、濃厚接触者の範囲の決め方を変えるか濃厚接触者を中心に検査するという考え方を見直す、つまり感染リスクの考え方を変更する必要があります。実態はそうなっていないのでしょうが、データがないのでわかりません。

ケース2は、濃厚接触とそれ以外のグループの陽性率が同じですが、意味するところは濃厚接触の有無に関係なく陽性が広がっていることです。ここでも(定義された)濃厚接触以外の感染の拡大レベルが大きいという解釈もありますが、(定義上の)濃厚接触を回避するという方策もあまり意味がありません。

ケース3は、濃厚接触者の陽性率(48/160=.30)がそれ以外の陽性率(32/840=.038)ですので、濃厚接触者の陽性率はそれ以外の約10倍ということになります。実感には一番近いのですがデータがありません。ここでの示唆は、濃厚接触者は検査によって増えるわけではないため、非濃厚接触者の検査数を拡大すればするほど、濃厚接触歴のない人の陽性数が増える一方でその陽性率(および全体の陽性率)が下がり濃厚接触者の危険率が高まる点です。

このように、検査の結果だけではなく検査の対象を明らかにすることは、検査データを解釈する上で、重要な意味があるのです。監査人が標本を選ぶ際に、ランダムにではなく監査対象のリスクの高い領域を特定してから標本抽出をしているリスクアプローチも、まさにこの理屈です。

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