労働生産性を上げる

2022年8月26日 | By 縄田 直治 | Filed in: データの利活用, 人材育成, 統計.

日本はホワイトカラーの生産性が他の先進国に比べて低いと報道されることがありますが、その理由としてデジタル化の遅れや冗長な意思決定方式などが取り上げられます。

そもそも労働生産性とは、労働投入量に対して労働によって得られる付加価値の割合ですが、これを数字で表現しようとすると色々な方法が考えられます。労働投入量については、支払われた賃金の総計、労働投入時間、投入延べ人数など複数の候補が選択できます。付加価値はさらに算定が難しく、通常は機械などの資本財\(C\)を人が用いながら仕事をするので、労働だけによって生み出された付加価値部分を取り出して算定することが事実上できません。したがって全体として付加価値\(Y\)を捉えて、投入資源量\(L+C\)と対比することで計算します。

生産性Pは次のように表すことができます。

$$P=\frac{Y}{L+C}$$

このとき、労働生産性\(P_L\)は

$$P_L=\frac{Y}{L}$$

となりますので、Yが一定ならば資本生産性\(P_C\)が落ちることになります。ただ実際の経済では、資本投資\(C\)を増加させることによって\(Y\)を大きく成長させることで、相対的にLの比率が下がるので、結果的には\(\frac{Y}{C}\)は向上することになります。これがデジタル化投資の必要性を端的に説明しています。

次に資本投資を変化させずに労働生産性を向上させることを考えてみます。

労働投入量\(L\)は労働時間と考えれば、投入人数\(L_n\)と一人あたり労働時間\(L_t\)の積に分解できますから、

$$L=L_n\times L_t$$

すなわち、

$$
P_L=\frac{Y}{L} = \frac{Y}{L_n \times L_t}\\
$$

となります。

さてここで困った問題が生じます。投入人数\(L_n\)は日本国の少子高齢化の影響で労働人口(一般に15歳から65歳とされています)は減少傾向にあります。これをこれまでは一人あたりの業務負荷を増やす方向で「ナントカ」対処してきましたが、一人あたり労働時間\(L_t\)は、昨今働き方改革という言葉に象徴されているように減少させなければなりません。つまり、労働量だけに頼って生み出す付加価値を向上させることは行き詰まってしまいました。\(L=L_n \times L_t\)はもう増やせないと考えるほうが真っ当でしょう。

労働投入量によって生み出される付加価値を物理的な量で考えると、機械による自動化等が有効な手段であることはこれまでの歴史が物語っていますが、そうすることが難しい仕事もあります。例えば介護福祉のように人が対応しなければならない業務や、複雑な交渉事については、モノの生産ラインのような自動化や量産効果による改善を考えることは難しいです。よく、機械に出来ることは機械にさせて、人はもっと価値ある仕事に取り組むべきだと言われますが、物理的に機械にさせることができることにも限界があります。

特にホワイトカラーの業務は、機械化出来ることは機械していくのが当然として、機械化の議論は処理した伝票の枚数を自動化するとか、営業が訪問した顧客の件数をオンラインに替えるなどで捉えてしまうと、生産性の向上はできたとしても期待するほど大きくはありません。伝票にしてもオンライン会議にしても、やはり物理量としての人が処理できる限界を超えることはできないからです。言い換えると、人の所作が生産性のクリティカルパスになっているわけです。一秒間に百万件の伝票処理が出来るコンピュータがあっても、伝票入力を人の手によっていれば、人が処理できる量が限界になっていることに変わりはありません。そもそもホワイトカラーが生み出している価値は物理量に基づくものの他にもあるはずです。

その価値の一つとして情報が挙げられます。

情報は、それを判断に活用してリスクを回避したり新しい機会を見出したり、業務を改善したり、多方面の用途があることから、それが価値を持ちます。情報に価値をもたせること、あるいは価値ある情報を見出すことは人間の役割です。一方、伝票は単に一つの事実を伝えるデータに過ぎないため、データの生成に要するコストは物理量として極小化すべきでしょう。

新たな情報によって新たに生まれる価値を\(Y_i\)と考えるならば、生み出す情報量\(I\)と価値との関係で

$$P = \frac{Y}{L+C} = \frac{Y_p}{L^\prime+C^\prime} \times \frac{Y_i}{I}$$

という考え方が出来るのではないでしょうか。

データはデジタル化されることで再利用可能性を高めるとともに、処理コストを大きく下げることができます。つまり\(I\)は本来は\(L+C\)の中に隠れていて、分母の物理量(情報処理量)を上昇させる係数として考えると、それを凌ぐ価値として\(Y_i\)が生まれれば、全体の生産性を向上させるというイメージです。

情報を扱う上で注意しなければならないことは、生み出される情報量とそれに伴う情報処理量を同列に扱わないということです。つまり、情報量を増やしても人による情報処理量(作成・伝達・加工など)は機械化により極小化するという姿勢が必要です。さらに情報量をいくら増やしても人が用いることができないのであれば意味がないため、要約するということも必要ですが、それも情報処理ですから物理量になります。

情報量を上手に制御して、情報処理量は極力機械化して対処することで、情報による付加価値を上げることが、ホワイトカラーの生産性向上に寄与するはずです。申すまでもなく、人への投資の要点の一つに、人の情報処理能力を向上させることで増加する情報の物理量に対処できるようにすることと、取り扱う中から有用な情報を生み出したり有効な判断が出来るようになるということが、肝要になります。

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