CPAAOB令和4年版モニタリングレポート

2022年8月21日 | By 縄田 直治 | Filed in: 監査と監査人.

公認会計士・監査審査会(略称CPAAOB)が毎年その業務を総括したモニタリングレポートを発行している。CPAAOBの役割は公認会計士による監査業務を監督することにあり、モニタリングレポートはその一環として業界情報を関係者から徴求して取りまとめしたものである。令和4年版を覗いてみた。

https://www.fsa.go.jp/cpaaob/shinsakensa/kouhyou/20220715/2022_monitoring_report.pdf

リソースの状況

図表I-1-1<公認会計士登録者数の推移>(p.12)を見ると、公認会計士登録者数は平成30年3月末に30350人から令和4年3月末に33215人と、4年間に3千人ほど増加している。しかしながら、監査法人所属者数は同じ年度間の比較で13901人から13685人と僅かながらも減少しており、大層を占める大手法人の所属者数が、11,016人から10,201人へと800名近く減少していることが影響している。

図表III-1-6<社員・常勤職員の人員数の推移(単位:人)>(p.69)を見ると、大手監査法人(4法人合計)では、過去4年間で人員数が21千人台でほとんど変化していない。一方、準大手監査法人(5法人合計)では、平成29年度に1445名から令和3年度には2千名を超えており、その内訳は社員(パートナー)の数はほとんど変化していないが公認会計士試験合格者等いわゆる若手職員の増加によっている。

報酬の状況

図表I-2-7<業務収入、その内訳及び業務収入に占める監査証明業務収入の割合の推移>(p.21 )を見ると、大手法人の業務収入は、平成29年度3447億円から令和3年度3878億円へと5年間に430億円増加している。そのうち監査証明業務はグラフから読み取る限り、平成29年度2500億円程度から令和3年度2800億円程度に300億円程度の増加が見られる。

対して準大手は業務収入で231億円が311億円にと80億円の増加、中小は278億円から442億円へと64億円の増加となっており、双方とも監査証明業務以外の収入は高くても10%であることからほぼ監査報酬の影響と見て良いだろう。

監査契約の状況

図表III-5-1<監査事務所を変更した上場国内会社数の推移(単位:件)>によると、平成30年6月期には115件あったものが年を追うごとに増加し、令和4年6月期には228件に至っている。令和2年度以降の異動はより顕著になっているが、令和4年6月期においては、大手による監査契約の減少が140件であるのに対し、準大手の増加は31件ほどで、中小法人へのシフトが109件となっている。

異動理由(図表III-5-4<上場国内会社の会計監査人の異動理由(単位:件)>(p.93)を見ると、監査報酬を理由としている件数が、令和2年6月期の40件程度に対して、令和3年および4年6月期は60件程度に増加しているだけでなく、「監査対応と監査報酬の相当性」を理由とするものも、令和2年6月期は8件であったのに対し、令和4年6月期は70件程度見られることから、直近の236件を基礎に考えても報酬等を理由とするものが130件程度あることになる。

契約数を減らしている大手法人の立場から見たデータ(図表III-5-5<大手監査法人 – 前任監査人から把握した会計監査人の異動理由(単位:件)>)を見ても、監査報酬を理由としたロストが112件、次いで継続監査期間を理由としたものが60件ということで、対象142件のうち相当数が報酬を理由としていることが伺われる。

異動前後の報酬の推移は、より規模の小さい監査法人に契約をシフトしたケース133件のうち98件が報酬を減少させているのに対して、増加も26件ある点は注目できよう。

私見

こうしてみると、監査契約が大手から準大手や中小の監査法人にシフトしているかのように見えるが、あくまでも契約件数を見る限りということが言える。マーケットリスクの観点から言えば、被監査会社の市場規模によって捉えるべきであり、時価総額等を基準で契約がどう動いているのかは、関心があるところだ。

業界全体としてみれば業務収入が増加傾向にある中で、準大手と中小法人が人員規模を拡大しながら、より規模の大きい業務を増やしている様子が覗えるが、大手法人はリソースが安定的に推移している中で報酬規模を増やしており、生産性を上げている一方で採用の困難にぶつかっており、監査契約をリスクや採算により振り分けせざるを得ない状況になっていると見られる。この点は、監査人の交代理由として報酬を挙げるところが主体で、さらに交代前後で実際に報酬が下がっているケースが主体になっていることからもわかる。

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