スクリーニング検査と確認検査

2020年7月31日 | By 縄田 直治 | Filed in: データの利活用.

COVID-19いわゆる新型コロナウィルスによる騒動は半年以上たった今も落ち着きを見せません。むしろ、5月に一旦収束したと思われていたものが、6月以降ぶり返したという意見が多いようです。その中で特にPCR検査をして早期発見し早期対処(隔離措置など)をしろという意見がマスコミなどでは主流のようです。

しかし、監査をしている者の感覚からすれば、かなり違和感を覚えます。特にPCR検査万能のような考え方には、素人でも閉口します。どのような方法であれ何でも打ち砕く「銀の弾丸」や万能の「魔法の杖」は存在しないとは、昔から言われている話。

私が大きな違和感を覚えるのは次の二点。

  1. 陽性者の数の増加は明らかに検査数の増加に比例しているのですが、絶対数だけが独り歩きしている。検査リソースが限られている以上、検査対象者の選択は症状があり疑いがある人が最優先で、次に感染者との接触がある人という順番です。したがって、サンプルにはもともと疑いの強い人が選ばれているという意味では、ランダムサンプルした場合より明らかに高い陽性率がでるはずです。この陽性率については、感染するリスクを考える上で、例えばよく言われる「夜の街」での感染率がどの程度なのか、また無作為に選んだ場合の感染率とどのくらい有意に違うのかという辺りが明らかにされていません。つまり、市民はどの程度安心し、またどの程度警戒しなければならないのかがいまだよくわからないのです。
  2. もう一つは、陽性者と発症者がどの程度違うのか、また発症者がどの程度重症化しているか、さらにはそれはどのような属性の人かがよくわかりません。心疾患のある人や老人は重症化しやすいという話は聞きますが具体的なデータが示されていないのです。

つまり検査を増やして陽性者を隔離するという施策は、一見すると正しそうに見えますが、どういう根拠なのかデータがあきらかにしていませんし、限られた予算を使うすべとしては正しいとは思えません。日本によくある厄払いや臭いものに蓋をして安心するという悪いところが出ているのでは。逆に健康よりも経済活動を優先すると言って反対する人はいますが、それは思い違いであって、経済活動とは企業が金儲けをするという意味ではなく我々自身の生活を守ること(インフラや物流、食料の確保、そして雇用)に他なりません。

そういうことを考えながら、PCR検査とはどういう検査なのかを調べていたら、HIVなどの感染症の検査には、検査対象者自体を選抜するスクリーニング検査と、その結果で陰性とされなかった人を対象にする確認検査とがあるようです。監査で言えば、詳細テストの対象とする取引を選別する分析的手続から条件抽出までがスクリーニングで、そこから更に怪しい取引を深堀していくのが確定検査ということです。つまり無作為抽出(ランダムサンプリング)ではなく相対的にハイリスクな領域を絞り込んでいきながら対象をあぶり出す戦法が、検査でも当然の概念として使われているようです。

無症状(いわゆる、発熱、咽頭の痛み、倦怠感などの症状がない人)に対してPCR検査をして「陽性」反応が出たとき、その人は発症していないので感染者ではありません。いわば、ウィルスの付いたドアに触った手からウィルスが検出されたということと同じ意味を含んでいます。もちろん本当の意味での感染者もいるはずですが、無症状であれば感染者とは言えません。そういう人を見つけて、隔離するのは(しないよりはいいという考えがあるのかもしれませんが)、結局のところ確率論で得られる日本国民全体の中での感染者の中のほんの一部を見つけるに過ぎません。監査で言えば、サンプリングでたまたま見つかった不正の修正仕訳を入れて満足するようなものです。逆に検査で陽性率6−8%程度の人が本当に感染しているとすれば、日本全体で8百万人を隔離するという話です。馬鹿げています。

むしろこの議論は、感染したら重症化する人たち(老人や有疾患者)を如何に保護するかという議論であるべきです。もちろん感染者を彼らに近づけないのは必要ですし、そのために陽性者をたくさん見つけるという意見もあるのでしょうが、8百万人を隔離することとの比較考量でしょう。つまり感染予防の議論の対象の優先順位の置き方が、感染してはいけない人ではなくのっぺりと日本全体を対象にしている点で、科学的思考やコストベネフィットという思考が抜け落ちていると言えます。

スクリーニングと確定検査とでは検査に求められる質が異なります。スクリーニング過程では余計なものを検査対象に入れないに越したことはありませんが、まずは怪しいものをきちんとまな板の上に載せる必要があります。プライバシーの保護とか何とか言う前に、客観的にハイリスクな状況にある人たちにスクリーニング検査を優先すべきでしょう。そして、その陽性者ないしは陰性と認定できなかった人について、PCR検査などの精度(とコスト)の高い検査を実施することが、貴重な検査リソースを有効活用することにつながり、また最終的にウィスルの犠牲者を少なくすることになります。

正確な検査結果を出すためにはそれなりのコストがかかります。その正確性を担保するためには、怪しくないものをスクリーニングして除外しておく必要があります。それが医学的にどういう検査なのかはわかりませんが、やはり症状があるかどうか、そして肺炎の疑いがあるかどうかが容易に判明するCT検査などに当たるはずです。

この考え方は、監査における機械学習等の活用にも当てはまるでしょう。つまり計算機の能力を考えずにいたずらにデータを食わせて、監査対象となる取引を洗い出すような技術は、そもそも考え方が間違っていて、論理的に低リスクな領域を人間の判断も含めて除外していきながら、ターゲットを絞った上で計算機に働いてもらうことが、劇的に計算機の運用効率を上げることにもなりますし、結果的に抽出される取引のリスクもわかりやすいものになるはずです。

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