Exposure: From President to Whistleblower at Olympus

2013年8月15日 | By 縄田 直治 | Filed in: ガバナンス, ブックレビュー.
Exposure: From President to Whistleblower at Olympus
Michael Woodford
Portfolio Penguin


夏休みを使って久しぶりに英語の本を通読した。口語体で読みやすい英語で書かれていたが、やはり5日もかかってしまったのは、素直に勉強不足を認めるしかないだろう(だから、読んでいる)。

オリンパス事件は発覚から2年経過するが、未だに納得がいかないところが多い。しっくりこないというか腹に落ちないというか、見るべきところが見えていない気がするのである。それは監査において、本当にすべての重要な事実を把握しているのだろうかという感覚に通ずるものがある。この事件を単なる「役員による損失飛ばし行為とその隠蔽」という形に納めてしまっていいものだろうかという疑問はまだ消えない。

本書は、社長に就任して結果的に事件が日の目を見ることになったきっかけを作ったWoodford氏によるものである。社長就任から雑誌記事への疑問、CEO就任して数日で解任、その後、事件発覚して調査が進み、臨時株主総会での返り咲きを諦めて一応のけじめを付けるまでのストーリーが、著者の目線から記されている(日本語でも「解任」という書籍が発売されているが、これが翻訳版なのかあるいは違う内容なのかは読んでいないので分からない。少なくとも日本語で書いてある以上は、誰かが翻訳しているはずなのだが、本自体には翻訳とは謳われていない。)。

著者の視点で書かれているので、自分が「外人」であることに対するある種のやりにくさや、一方での日本の慣習に対する素朴な疑問などがそのまま表現されているのだが、それ自体、日本人が感じているのだが感覚ボケしてしまって「当たり前の風景」になっていることに対する率直な反省点なのだろう。

解任されてそのまま(まさに着の身着のまま)で国外に脱出する辺りは、ヤクザに怯える外国人の感覚が出ていて、スリリングな部分である。
これまでのストーリーは昨年開催されたACFE Japan総会での氏の講演内容と重なる部分が多く、あたかも復習するかの感があった。

氏自身が一連の行動の中で最も反省していると感じられる部分が、メインバンクや主要株主との関係をとっておくべきだったという部分だろう。確かに、FACTAの記事(の翻訳)を読んでから取締役会や関係者に疑問をぶつけていく辺りは「単刀直入」という日本語がそのまま当てはまるストレートなアプローチをとっている。その間、彼を支えていたのは本国にいる家族であり、社内イントラに寄せられた「声」であり、日本にいては数少ない周囲にいる友人であった。但し、守秘義務という壁の中でどこまでそれが可能であったかは難しいところだ。事実、氏が解任された際には、会社の内情を暴露したことで株価が下がってしまったという非難がされている。

英国人の目から見た日本のガバナンスは確かに違和感があるはずだ。しかしそれが単に違和感なのか明らかに変なのかは、実は当事者の運用意図に関わってくる課題である。意図や目的が同じであれば、違和感は方法論(食事に箸を使うかフォークを使うか)の違いに過ぎない。つまり、我々が「確かに外の目から見れば変に見えますよね」と納得する(つまり何もしない)のではなく、その違和感が目的にどう影響しているか考える必要がある。「ガバナンスに問題がある」という言葉はこの事件に拘らず役員クラスが関係する事件では必ず出される問題点だが、それを社外取締役を入れたところで本当に解決する問題なのか、疑問は拭えない。なぜならWoodford氏自身はKeyMed(関係会社)での実績を買われてオリンパスの役員になったとはいえ、実質的に意味するところは社外取締役のような役割であったとも言えるわけだ(しかもPresidentという肩書きまでついている)。

飛ばし行為は不正である。それを起こさないようにすること、あるいはいったん起こってしまった不正は早期に発覚するように図るのがガバナンスである。疑問に対して明らかに説くことがaccountabilityである。なぜ飛ばしができたか、なぜ隠せたのか(状況)、なぜ隠したのか(意思)という問題を構造的に捉えて、どうあるべきだったかを当事者の立場になって丁寧に総括する必要がある事件である。この点があまり解明されていないのが、まさに「しっくりこない」感覚に繋がっている。

組織が本来期待されている形で機能するためには、最初で最後にはその当事者の行動によるところが大きい。本書が呈しているのは、斯様な状況に置かれた際に、自分は何を価値観においてどう行動するか、それを考えることなのではないか。氏が孤軍奮闘する姿はその結果を知っているからこそいかにも英雄視されるが、解任されたその後に何も起こらなかったら・・・・と考えると戦慄を禁じ得ない。

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