第三回ACFE Conference

2012年10月13日 | By 縄田 直治 | Filed in: 不正.

10月12日青山アイビーホールで第三回ACFE Conferenceが開催されました。

午前の仕事が少し長引いて昼食抜きで到着した会場はほぼ満席。おそらくはMichael Woodford氏の生の声を聞きにこられた方が多かったのでしょう。

Woodford氏はとてもゆっくりと丁寧に話していただいたので、逐次通訳と合わせてよく理解できました。もとより英語の勉強に行っているわけではないのですが、こういう席ではなるべく通訳を介さずに聴くように努力しているつもりです。

彼の話は概ね次のような内容でした。

  • 自分は20年以上勤めた会社を愛している。退職した今でも。欧州等で改革をして不採算事業を立て直した実績がある。
  • 世話になった菊川氏に社長就任を依頼された時も、報酬など考えずに直ぐに引き受けた。
  • FACTAという雑誌の記事について友人から初めて教えてもらった時には頭が真っ白になった(つまりそれまでは何も知らなかった)。そして信じられなかった。
  • でも、もっと信じられなかったのは、その直後の役員会議でFACTAの記事について話が全く出ず、いつも通りに会議が進んだこと。
  • さらに、FACTA以外にマスコミでこの問題に触れるところは全くなく、日本の報道に疑問を抱いた(この結果、WSJやFTに話をすることになったようです)。
  • 自分は経営者だったが、菊川氏は依然として独裁者(Emperorという言葉を使っていました)だった。
  • 内部告発は会社を愛する気持ちがなければ機能しない。自分は会社を愛するがこそ、世話になった菊川氏に退任を求めることができた。
  • 菊川氏は悪事を働いたかもしれない。しかしもっと行けないのは、それを隠し通そうとしたことだ。
  • 売り上げのない会社に対してどう考えても巨額すぎる投資について、経営者である自分(監査報告とREP Letterにサインする立場として)に説明がないというのはおかしい。

印象に残ったのは、私は経理は分からないということは一切言われなかったこと、さらには決算に責任があることを言明されていたこと、再三にわたって”7 billion for non-turn-over companies”(正確ではありませんが)という言葉で常識的に変でしょうということを強調されていたことです。

後の八田教授とのディスカッションでも、マスコミの対応には不満を漏らされていましたが、これは監査の専門家である八田氏には気に入らなかったようで、半ば強引に「監査法人が監査をきちんとしていれば問題は発覚したと思いますか」と質問し直して「Yes」と言わせていました。しかし、聴衆は不正検査士の会合ですから、「不正をどう抑止し防止し発見し対処するか」という興味と観点で集まっている人達ですから、監査の問題を論ずる場所ではないのに、我田引水の議論をして、企業会計審議会の不正監査基準に話を繋ぐあたり、聴衆側からは白けた雰囲気が漂いました。

その後、2社ほど事例紹介がありました。一つは海外を含めて数百という子会社がある伊藤忠商事の内部監査の事例。リストラにより内部監査要員が削減され、各社ごとの監査ができなくなってしまい、集約した部門ごとの監査をするようになった経緯、不正調査を専門に担当する組織の設置などが紹介されました。もうひとつはアステラス製薬の内部監査から、「経営監査」という視点での監査が、経営者から予算を削られないようにいかに経営者の役に立つ監査レポートを出せるかどうかに心血を注いでいるかという観点のお話でした。これは監査の指導的機能という観点からも考えるべき内容でした。

パネルディスカションでは、「不正会計」の宇澤氏、不正関連のコンサルをされている小川氏、ブログで有名な弁護士の山口氏、元検事の木曽弁護士、いずれもACFEの理事の方の知見を得ることができました。なかでも印象的な話を列挙しますと、

不正の端緒に気がつくには不正の手口などの知識も必要だが、それ以上に、『疑問を持つこと』そして『見つけようという意思』が大事である。(宇澤氏)

コンプライアンスが唱えられるようになったのは、監督責任を持つ『お上』が訴訟の対象になるようになって、その組織防衛のために企業側に責任転嫁するようになったからだ。相互チェックと透明性が重要。またリーニエンシー(白状すれば罪が軽くなるようなインセンティブ制度)も重要(木曽氏)

いったん不正があったら、その対処に失敗する二次不祥事は絶対に回避しなければならない。徹底的に調査して全部さらけ出す覚悟でやれば、世間はそれ以上の罪は問わない。(山口氏)

ネットの情報は結構当たっている。ネットだけでなくマスコミ、当局などへの対応を誤らないようにすること。不正調査に変な正義感はかえって邪魔。淡々と事実を究明していくことが不正調査の目的。(小川氏)

特に、山口弁護士は、不正がわかったら「会社のため」ではなく「会社が社会的責任を果たすため」に行動するべきで、その前提には会社を愛するということが必要だというWoodford氏の言葉を借りて説かれた山口氏は、同時に「会社のため」といっているのは所詮「本当は自分がかわいい」のだと言い、おかしいと感じた時に根拠なく(希望的に)それを否定する(=そんなはずはないだろう)のではなく、口に出す勇気が、組織の自浄能力に繋がるということを強調されていました。

昼食抜きの午後びっしりでとても疲れましたが、とても勉強になる会議でした。

さて会計士はこういう会に限らず、もっと不正への対応を議論する場を設けなくてよいのでしょうか。不正対応を企業会計審議会に出席している委員の方々だけの議論に任せていればよいのでしょうか。各会計士はもっと色々なところで不正対応についてプレゼンスを示さなくてよいのでしょうか。不正対処するためのIT技術の活用などはどうなっているのでしょうか。

その後の懇親会がありましたが、私はああいう場で人と話すがとても苦手なので退出しました。宇澤氏とも『不正会計』を著された動機について伺ってみたかったし、Woodford氏にも監査人とどういうコミュニケーションをとればよいのか聴きたかったのですが、どうも性格が邪魔をしています。この性格を直したい。

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