2009年6月19日株式会社大木(E01648)が、評価不能の内部統制報告書を公表し、会計監査人の監査意見は意見不表明となっている。
初めてのケースなのでいろいろと研究ネタが含まれているので、検討してみたい。
1.まずは、内部統制報告書の会社による評価結果の記述部分と評価の範囲および手続に関する記述部分とを比較してみる。
評価不能となった理由としては、「重要な評価手続が実施できませんでした。したがいまして、当事業年度末日において、当社の財務報告に係る内部統制の評価結果を表明できないと判断いたしました。」とされている。
実施できなかった重要な評価手続とは、「全社的な内部統制の評価手続」「業務プロセスに係る内部統制の評価手続」であり、間接部門人員を削減したため、知見ある者を評価に従事させることが困難であったことが理由となっている。
興味深いのは、間接部門人員の削減は必ずしも財務報告統制の整備運用の重要性を軽視しているわけではなく、「事業年度の末日後、社内においてプロジェクト・チームを再編成するとともに、内部統制専門のコンサルティング会社と契約し、内部統制の整備及び運用評価を進めて」おり、「今後1年間で評価を完了させる方針」と謳っている点である。
これは評価の結果ではないので、本来はこの欄に記載すべき事項ではなく、今後の対応は付記事項とし、人員削減で評価が出来なかった理由はさておき、評価が出来なかったこと自体については、「2 評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項」に記載すべきなのではないだろうか。
そこで、範囲区分に目を向けると、次のように記載されている。引用すると、
連結ベースでの財務報告全体に重要な影響を及ぼす内部統制(全社的な内部統制)の評価を行った上で、その結果を踏まえて、評価対象とする業務プロセスを選定しております。当該業務プロセスの評価においては、選定された業務プロセスを分析した上で、財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす統制上の要点を識別し、当該統制上の要点について整備及び運用状況を評価することによって、内部統制の有効性に関する評価を行っております。
となっており、全社的な内部統制の評価は行ったことになっているため、評価の結果部分で「評価できなかった」とされている記載とが整合していない。評価は試みたものの十分な評価が出来ずに評価結果が表明できないことと、評価は出来たが評価範囲や手続の制約により、結果を表明する合理的基礎が得られなかったこととは、意味するところが大きく異なる。
2.次に会計監査人の監査結果を見る。
財務諸表監査は、いわゆる無限定適正意見となっている。内部統制に関する有効性を経営者が表明していない状況での財務諸表等に対する意見であるから、監査人には実証テスト範囲を相当に拡大する(つまり精査に近い手続を実施する)などの苦労が背後にあったのではないかと推察される。
内部統制報告書に関する意見は次のようになっている。
会社は、内部統制報告書に記載のとおり、重要な評価手続ができなかった。会社は当該評価範囲の制約による影響により財務報告に係る内部統制の評価結果を表明できないと判断しており、監査手続の実施への影響が重要であることにより、当監査法人は、株式会社大木の平成21年3月31日現在の財務報告に係る内部統制について、内部統制報告書に対する意見表明のための合理的な基礎を得ることができなかった。
当監査法人は、内部統制報告書において評価範囲の制約とされた当該内部統制の財務報告に与える影響の重要性に鑑み、株式会社大木の平成21年3月31日現在の財務報告に係る内部統制の評価結果を表明できないと表示した上記の内部統制報告書が、財務報告に係る内部統制の評価について、適正に表示しているかどうかについての意見を表明しない。
経営者の評価結果が存在しないのであれば、監査対象が存在しないことになるので、監査意見が表明できないのは自明である。筆者が着目したのは、経営者の評価不能という結論に対して、「評価範囲の制約とされた当該内部統制の・・・・」という部分で、評価の方法論に対する意見ではなくあくまでも会社の評価範囲(の一部?)に制約があったと認めている点である。
そうなると、ますます、内部統制報告書の「2 評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項」の記述と「3 評価結果に関する事項」の記述との不整合が気になってくる。
このあたりは、実施基準でもその記載について十分な制度対応がされておらず、実務慣行も定着していないなかで、市場での受け止め方もいろいろとあるはずだ。専門家の間で事実をきちんと受け止めて、実務が混乱しないように制度自体の改善を図るべきことを主張したい。