内部統制報告書における重要な拠点の記載

2009年6月17日 | By 縄田 直治 | Filed in: 内部統制報告書.

内部統制報告書は内部統制府令第一号様式に従った項目を記載することとなっており、その内容については各表題を除いては会社の実情に応じて記載することになっている。

企業側は最も大事な部分は「3 評価結果に関する事項」に「当社の財務報告に係る内部統制は有効」と判断した旨を記載することだと考えているだろうが、本当に大事な部分は結果もさることながらその結果をどのようにして導いたかという点である。つまりどのような枠組みで財務報告に係る内部統制を捉え、どのように評価したかという部分である。

枠組みについては一般に公正妥当と認められた内部統制の評価の基準が「実施基準」として定められているので、それに準拠したという記載になるだろうが、それを具体化する評価範囲や評価手続に関しては個々の会社の実情が多様であるため、経営者の判断がストレートに反映される部分である。というのも、内部統制のあり方に標準形がある訳でもなく、まして評価の方法についても決まった方法がある訳ではないので、いろいろと個性的な記載が出てくることが期待される。つまり経営者の内部統制やその評価に対する姿勢が見えてくる部分と言えるだろう。

特に注目したいのは、業務プロセスの評価範囲において基礎となる重要な拠点の選定の方法と、標準形として示されている3勘定(売掛債権・売上・棚卸資産)以外に、リスクが特定されたために追加された勘定科目である。

1.重要な拠点

重要な拠点については、売上高等の重要性により決定している会社が多いと想像されるが、では「拠点」をどう定義しているのだろうか。実施基準上は、

事業拠点は、必ずしも地理的な概念にとらわれるものではなく、企業の実態に応じ、本社、子会社、支社、支店のほか、事業部等として識別されることがある。
企業の置かれた環境や事業の特性によって、(売上高以外にも)異なる指標や追加的な指標を用いることがある。

となっている。つまり、財務報告への影響がどのようにあるかという考え方は、経営者が業績向上や財産保全のために、どのような指示系統とそれを実現するための組織機構を用意し、会計情報を通じてモニタリングしているかということが如実に現れる。さらに、その会計情報の信頼性を担保するために、どのような「固まり」で会社を捉えてアプローチしていけばよいと考えているかが見えるような記述があることが理想であろう。

2.リスクのある勘定

重要な拠点が量的観点からの評価範囲の決定とすれば、リスクのある勘定は質的範囲からのアプローチと考えることが出来る。実施基準上の記載は、重要な拠点として選定されたところから、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを評価対象とすることになっている。ここには、業種や業態の特性によって、共通的な部分と会社独自の部分とが入るため、多様な記述態様が出てくると期待される。

業種業態による例としては、

  • 受注生産型のビジネス(ソフトウェア開発や建設事業など)の場合、棚卸資産の評価や受注採算に関係する科目
  • 商品モデルチェンジが激しい業種であれば、研究開発費の処理や、棚卸資産の評価に関する科目
  • 初期投資が大きく資金回収に長期を要するようなビジネスの場合、固定資産の評価に関する科目
  • コモディティを扱っているような業態であれば、価格変動リスクを回避するためのデリバティブに関する科目

会社独自のリスクが反映される例としては、

  • 税務上の優遇措置を多く享受しているような会社であれば、繰延税金負債
  • 重要な事業投資を行った会社であれば、投資の評価

などである。

このあたりは、有価証券報告書の事業等のリスクに開示されている項目との整合性なども考える必要があるだろう。

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