内部統制報告制度に関するQ&Aの再追加

2009年4月4日 | By 縄田 直治 | Filed in: 財務報告統制.

金融庁から4月2日付で「「内部統制報告制度に関するQ&A」の再追加について」が公表された。Q68からQ84までの17問のうち5問が重要な欠陥に該当するかどうかの判断指針で、Q80以降の5問はどちらかというと手続論である。Q85からQ100は欠番となっており、Q101以降の7問は報告書の記載内容についての解説である。

ざっと眺めただけで精読してはいないが、最も重要なところは「重要な欠陥」に関する判断の部分であるが、色々と議論になりそうな点が多くある。

書き方で目立つのは、「・・・・と監査人から言われたが、そうしなければならないのか。」という設問である(Q69, Q75, Q76, Q78)。例えば、

(問69)【重要な欠陥の判断(財務諸表等のドラフト)】有価証券報告書に含まれる財務諸表等のドラフトを監査人に提出したところ、監査人から個々にはそれほど重要ではないが、多数の誤り(虚偽記載)等の指摘を受け、指摘された数が多いことなどから重要な欠陥に該当するのではないかと言われた。会社としては、できるだけ早く決算書や財務諸表のドラフトを監査人に提出してチェックを受けようと考えているのに、ドラフト段階での誤りをもって財務報告に係る内部統制に重要な欠陥があると指摘されると、会社は、監査人への決算書や財務諸表のドラフトの提出を遅らせ、ひいては決算発表も遅れるということになりかねない。財務諸表等のドラフトをどう考えたらよいのか。

という設問に対し、回答(の一部)は、

指摘された誤りが多いことをもって重要な欠陥に該当するものではなく、誤り(虚偽記載)を生じさせた内部統制上の不備の金額的・質的重要性を勘案して重要な欠陥に該当するかどうかを判断することとなる。

となっているが、素直に読んでよいのだろうか。

あらゆる不備は金額的・質的重要性を勘案して重要な結果となるかどうかを判断されるので、回答自体は誤っていない。しかし、例えば決算発表が遅れるから早く監査人にチェックさせようという会社の意図は、決算発表を遅らせなければきちんとした決算案が作成できないにもかかわらず無理なスケジュールを経営者が組んでおり、財務諸表規則に基づいて財務諸表を作成するための十分な態勢も組めていないと監査人が判断した場合には、監査人がそれを重要な欠陥と判断することはあるかもしれない。経営者評価と監査人の判断とは二重責任であり、共通の事実関係(ドラフトにおける誤りの発生とその要因)に基づいて、経営者と監査人とがそれぞれ判断する問題である。

しかし、設問と回答との関係を見ると、監査人があたかも判断を誤っているかのような誤解を与える内容となっている。内部統制評価制度は経営者と監査人とがそれぞれの立場で有効性を判断した上で、経営者の報告書における重要な虚偽記載の有無を監査人が意見として表明する原則に立てば、Q&Aは客観的事実があってそれをどう判断したらよいのかを記載すればいいはずであるにもかかわらず、「監査人に言われたがどうなのか」という設問の立て方自体に監査人を悪者にでもしようとする意図を感じてしまう。会社から見れば悪者なのかもしれないが、Q&Aは監査人も判断に当たって参照するものであることを汲んでほしい。

せめて、次のような設問と回答となるはずである。

(設問)有価証券報告書に含まれる財務諸表等のドラフトを監査人に提出したところ、個々にはそれほど重要ではないが、監査人から多数の誤り(虚偽記載)等の指摘を受けた。これは重要な欠陥に該当するのか。

 (答)財務諸表等のドラフトについても、監査人から指摘された誤り等が、会社の内部統制によって防止・発見できなかったのかどうかという観点から検討する必要がある。但し、開示において高度な専門的判断を伴う場合に、監査人と企業側とが協議を行うことは、従来の財務諸表監査の過程でも行われている実務であると考えられ、この場合、協議の過程で、重要な虚偽記載が発見されることがあっても、内部統制の重要な欠陥と判断する必要はない。

また、問75あたりは実務では普通にある事象であり、そのまま読む流すと、目前の期末監査においてかえって混乱が起こりそうな内容である。

(問75)【重要な欠陥の判断(売掛金の残高確認)
監査人が期末日を基準として実施した売掛金の残高確認において、得意先への売掛金の照会(確認状)に対する回答額と帳簿残高に差異があった。監査人から当該事実は重要な欠陥であると指摘を受けたが、直ちに重要な欠陥であると判断しなければならないのか。

(答)1.監査人の行った残高確認において、回答額と帳簿残高に差異があった場合、会社が既にその原因を解明の上、差異の調整を実施し、適切な残高に修正している場合には、会社の内部統制は有効に機能していると判断できるものと考えられる。
2.一方、監査人が行った照会(確認状)による差異について、会社が当該差異の原因を明らかにできない場合や適切に差異の調整を行い残高の修正を行わないような場合には、内部統制上の不備によるものとして、重要な欠陥となり得る場合があると考えられる。

残高確認で差異が発生することは通常にあることで、期末監査ではこの差異調整に相当の稼動を強いられることになる。監査人はこの差異調整の作業を毎年行い、作業に要する時間や会社側の回答内容などを企業間で経験的に比較して、会社の統制レベルにそれなりの心証を持っている。これに時間や手間を要する会社は、日頃の業務での残高のメンテナンスが十分でない可能性が高い。

上記回答は、差異の原因を解明できてきちんと調整を実施すれば、統制は有効に機能していると判断できると読めるが、通常、差異の原因は会社の統制の不備による場合と、取引先との処理の違いに起因する場合とに大別される。差異が誤請求によるものと判明しても差異調整を行えばそれでよいのだろうか。逆に見れば、監査人が残高確認の手続をして差異調整を要求しなければ差異は残存することになる。監査手続が会社の内部統制の一部を構成するようなことを容認しているとも受け止められかねないのではないか。それは意図せざることだとは思うのだが。

実務における法の運用は、その趣旨とそのときどきの社会通念を踏まえて、慎重に判断したい。

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