監査基準改訂:継続企業

2009年4月11日 | By 縄田 直治 | Filed in: 監査制度.

2009年4月9日の企業会計審議会で、継続企業の前提にかかる監査基準の改訂が審議され、翌10日に金融庁より公表された。新しい制度がどのようになったか検討を加えてみたい。

今回の改訂趣旨は前文で以下のように記載されている。

一定の事象や状況が存在すれば直ちに継続企業の前提に関する注記を要するとともに追記情報の対象と理解される現行の規定を改め、これらの事象や状況に対する経営者の対応策等を勘案してもなお、継続企業の前提に関する重要な不確実性がある場合に、適切な注記がなされているかどうかを監査人が判断することとした。

これにより、

今回の監査基準の改訂により、継続企業の前提に関する監査実務の国際的な調和を図ることができるものと考えられる。

としている。

監査基準の改訂は、継続企業前提に関する企業側の以下の開示ルールの変更が前提である。

財務諸表等規則等を改正し、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合であつて、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは、経営者は、その評価の手順にしたがって、
①当該事象又は状況が存在する旨及びその内容、
②当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策、
③当該重要な不確実性が認められる旨及びその理由
などを注記することが検討されている。

財務諸表規則の改正案が以下のようになっていることと平仄を取っている。

(継続企業の前提に関する注記)第八条の二十七
貸借対照表日において、企業が将来にわたつて事業活動を継続するとの前提(以下「継続企業の前提」という。)に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合であつて、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは、次に掲げる事項を注記しなければならない。ただし、貸借対照表日後において、当該重要な不確実性が認められなくなつた場合は、注記することを要しない。
一 当該事象又は状況が存在する旨及びその内容
二 当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策
三 当該重要な不確実性が認められる旨及びその理由
四 当該重要な不確実性の影響を財務諸表に反映しているか否かの別

これを受けて監査人は、その開示の適否について監査を行うことになる。

継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在すると判断した場合には、当該事象又は状況に関して合理的な期間について経営者が行った評価及び対応策について検討した上で、なお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるか否かを確かめなければならない

その結果として、監査人は「継続企業の前提に関する重要な不確実性」が認められるときの財務諸表の記載に関して意見を表明する。この「重要な不確実性の有無」について、「疑義が解消されたか否か」と捉えれば従来の監査意見形成実務と大きく変わらない。

しかし改訂基準は、従来の意見形成実務に対する次のような認識を示している。

現行の報告基準において、重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在している場合において、経営者がその疑義を解消させるための合理的な経営計画等を示さないときには、重要な監査手続を実施できなかった場合に準じ、意見の表明の適否を判断することとされている。この規定については、疑義を解消できる確実性の高い経営計画等が示されない場合には、監査人は意見を表明できないとの実務が行われているとの指摘がある。

そして、

今般、国際的な実務をも踏まえ同規定を見直し、経営者が評価及び一定の対応策も示さない場合には、監査人は十分かつ適切な監査証拠を入手できないことがあるため、重要な監査手続を実施できなかった場合に準じ意見の表明の適否を判断することとした。

つまり、監査人が意見を表明しない(意見不表明)場合とは、「経営者が評価及び一定の対応策を示さない」場合になり、その内容が「疑義を解消できる確実性の高い経営計画等」か否かにかかわらず、意見は表明しなければならなくなった。これは、実施基準三8で担保される。

監査人は、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在すると判断した場合には、当該事象又は状況に関して合理的な期間について経営者が行った評価及び対応策について検討した上で、なお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるか否かを確かめなければならない。

この、「なお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるか否か」という考えには、(1)経営者の対応が合理的か、という検討と、(2)経営者の対応に蓋然性があるか、という2点を含んでいると解される。

これは、「報告基準 六 継続企業の前提」における、「継続企業を前提として財務諸表を作成することが適切であるが、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合」とリンクして検討しなければならないが、この改訂基準の最も分かりにくいところであり実務を混乱させる可能性がある点である。

さて、「継続企業の前提に重要な不確実性が認められ」ているにもかかわらず、「継続企業を前提として財務諸表を作成することが適切である」とはどのような場合を言うのだろうか。また、重要な不確実性があることと、継続企業の前提に立てることととが別個に考察できるとは、「実施基準 三 8」からはとても読み取れない。監査人は何を根拠に継続企業の前提が適切か否かを判断するのだろうか。このあたりは、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況」の見直しも含めて公認会計士協会が今後公表するであろう実務指針に大いに注目しなければならない。

仮に、「適正意見+追記情報」という監査報告書が出される可能性が非常に限定的になるとするならば、今回の改訂は、継続企業に関する経営者の評価及び開示義務(MD&A)を確認する一方で、財務諸表注記の可能性を相当程度限定したものとなるが、その意図が生きるかどうかは、MD&Aに開示されるリスク情報の充実が趣旨を反映して企業側が対応するかどうかにかかってくる。企業側がどのように対応し、開示情報の利用者がこれをどう受け止めるのか注視したい。

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