継続企業前提の開示・監査規定の改正案

2009年4月4日 | By 縄田 直治 | Filed in: 監査制度, 開示制度.

平成21年3月24日金融庁からゴーイングコンサーン(GC前提)の見直しと、これに関係する監査基準の改正案が出され、パブリックコメントが昨日(4月3日)締め切られた。改正の趣旨は、国際的な基準と整合させることにあるとなっている。

改正の骨子は、従来の制度が、

「(1)GC前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在」している場合には、

「(2)GC前提に疑義があるという注記と経営者の対応等を開示」しなければならなかったのに対して、改正案は、

「(1)GC前提に上記事象又は状況が存在」し、

「(2)経営者の対応等をしてもなお重要な不確実性が存在」する場合で、

「(3)期末日後も重要な不確実性が存在」していれば、

「(4)注記が必要」となる。

さらに開示に対する補完的な担保として「事業等のリスク」にGC前提の疑義やこれへの対応策を開示させることになっている。

パブコメはまだ公表されていないが、投資家側、開示する企業側、監査する立場から検討してみたい。

まず、投資家側にとっては、GCの疑義が存在すれば即注記となっていた従来に比べ、さらに重要な不確実性が存在するかどうかという判断が加わった上での注記になるので、GC注記の意味合いがより重く受け止められることになるだろう。GC疑義の存在や対応策については、その開示箇所が財務諸表注記からリスク情報に移っただけであり、もともと開示が求められていたところでもあるから、この改正により新たに開示される情報はないが、情報の開示箇所による「危険度のランク付け」がなされることになる。一見するとより有用な情報が市場に提供されたかのような印象を与えるが、そもそも投資家は投資の危険度を素材情報から自ら判断して投資するという基本前提からは逆行していないか。

一方、企業側にとってみれば、GC疑義に応じた経営者の対応策をリスク情報として柔軟に開示できるようになったのだが、自らの経営計画や経営者の対応策についての「重要な不確実性」を評価した上でリスク情報とするか財務諸表注記とするかを判断して開示しなければならないことになった。これについては、今回のリスク情報の開示の項目が変わったわけではなく、元々の制度からそういった開示は必要であることを明確にしたことになっている。しかし、リスク情報の開示は金融商品取引法の開示規制の範疇であるから、今後、行政による開示指導等が強化される可能性に従わねばならないという新たな問題も出てくるので、従来の開示姿勢と今後の開示姿勢とが変化せざるを得ない状況になっている。

そして、独立の立場から監査意見を出す監査人においては、従来は「期末時点におけるGC疑義の存在」を判断していたことに加え、経営者の対応策について「重要な不確実性の有無」までをも確認しなければならなくなった点、またさらに監査報告書日現在までその判断を検討し続けなければならない点が、大きな追加責任となっている。つまり財務諸表注記の持つ意味が従来より重くなっていることから、監査人の責任も平衡して重くならざるを得ない道理だ。

もちろん、今回の改正には、企業の財政状態が徐々に悪化していく状況においては、先ずはリスク情報として開示される期間があり、あるレベルで注記として開示されることになるという基本前提が置かれているように思える。とは言え、リスク情報の開示に関しては監査対象範囲ではないことから、本来開示されるべきリスク情報があっても十分な開示がなされてきていない場合に、どのように適切な開示を担保するのかが不明な点がある。リスク情報の開示が適切でなかった場合、結果的なペナルティを企業に科すことができたとしても、また、ある時点で突然に監査人がGC注記を要求したかのような印象を市場に与えてしまうことになったときに、市場の混乱を未然に防ぐという趣旨は本当に達成できるのだろうか。

さらに気になるのは、「重要な不確実性」が存在するときに、たとえ財務諸表注記にその旨が適切に開示されたとしても、監査人が追記情報付の無限定適正意見を表明できるのだろうか。経営者が自らの対応に重要な不確実性があると表明しているのである。斯様な状況で無限定適正意見を表明して、結果として不確実性が顕在化したときに、継続企業を前提とした決算を開示することを「適正」と認めた監査人の責任がどうなるのかを考えた場合、監査人は意見表明するという制度的建付けは成立するのだろうか。

またさらに、こういった重大な議論を、「国際的な基準との整合性」のためとはいえ、金融不況で企業業績が相当悪化していると伝えられる状況下で、決算実務が集中するこのタイミングに、極めて短期間に行わねばならない理由は何処にあるのか、色々と知りたいことが多い。

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