継続企業の前提に係る注記

2007年7月1日 | By 縄田 直治 | Filed in: 会計原理.

会計公準と言われるものがある。

1.貨幣数値

2.企業実体

3.継続企業

これらは、企業会計原則を元とする会計制度の大前提となっていることで、会計の教科書を紐解けば必ず冒頭辺りで説明されている概念だ。

貨幣数値公準は企業活動を金額単位で表現しましょうということで、販売数量とか従業員数などは会計情報の副次的情報であっても会計そのものは対象としないということだ。

企業実体公準は、会計が対象とするのは「企業」を一つの測定単位として考えましょうということで、法人格と裏腹の関係にある。

継続企業公準は他の2つの公準と比べるとその意味するところがやや分かりにくいが、この継続企業公準は、貸借対照表を時価で表現しない重要な論拠となっている。

たとえば減価償却は、固定資産の価値の目減りを決算期ごとに測定することが難しいことから、耐用年数と残存価額を見積って、使用期間に亘って償却費を配分するという形で、固定資産の貸借対照表価額を決める手続きだ。したがってある時点での固定資産帳簿価額は減価償却された結果としての価額であって、価値や売却可能額を表現しているわけではない。そういった手続が有効なのは、少なくともその使用期間に亘って固定資産が使用されるという仮定があるからで、さらにその期間は会社が継続するという前提が置かれているからだ。

また世間では「時価会計」という言葉で誤解されているが、低価法は認められても時価法が認められている範囲がかなり限定されているのも、投下資本は継続的な事業活動によって回収されるもので、回収によって実現した利益のみが株主資本を構成するという考え方をとっているからである。他方、既に分かっている損失は、たとえ事業活動の目的行為(たとえば売却)がなくとも事業活動の中で回収できないと考えられる額を先取りする。例えば、有価証券評価差額益は株主資本を構成していないが、評価差損は損失計上し株主資本から控除できる。また、棚卸資産の評価益の計上は換金可能性の高いかなり限定的な範囲でしか認められないが、評価損は直ちに計上する。これらも、会社が事業活動を継続するという前提があるから成り立つ考え方である。

すなわち、この「会社が継続するという前提」がなければ、この継続企業公準は成立しないため、貸借対照表項目はすべて貸借対照表日の時価で測定されることになる。

経営者は決算作成にあたって、会社が継続するかどうかを客観的状況に基づいて検討して、継続企業の前提に重要な疑義があると判断するときには、この継続企業公準に拠った決算の方法を採用することが適切であるかどうかを検討しなければならない。また、当然のことだが、疑義があるときに継続企業公準に拠った決算をするためには、その疑義を否定するだけの根拠(疑義の解消策)も考えなければならない。そして、貸借対照表作成に当たって継続企業の前提に重要な疑義があるときには、客観的状況と疑義がある旨を開示した上で、疑義は具体的な解消策によって否定されること、このため、継続企業公準に拠って決算していること、を開示する責任がある。これがいわゆる「ゴーイング・コンサーン(継続企業)注記」と言われるもので、決算における経営者の重要な説明義務の一つである。

継続企業前提は貸借対照表作成に当たっての要件であるため、その判断は貸借対照表日(決算日)現在において行なわれ、仮に決算日現在に継続企業前提に重要な疑義があったとしても、その後の解消策が決算公表までに実行されていたり具体的に遂行される計画になっている場合には、疑義は解消されたと考えることができる。ここは経営者の重要な判断である。

この注記をすることは新聞等で「倒産警告情報」などかなり誤解を招く伝え方がされていることは遺憾だが、実際は、「疑義が解消された」ことを注記するので全く逆なのだ。一方で、斯様な疑義があっても注記もせず疑義解消策も怠っているとすれば、経営者としては事業遂行責任も説明義務も果たしていないことになるので、問われる責任は非常に大きなものになる。結果的に会社がよくなる機会を意図的に喪失させたことになるという意味では、単なる株主に対する会計的な責任だけではなく、従業員や取引先に対しても、また広く社会に対しての責任も会社の社会的存在意義の大きさに比例して負うことになる。

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