負債の網羅性

2007年3月21日 | By 縄田 直治 | Filed in: リスクの分析と評価.

新人駆け出しの頃、監査現場に放り出され「何をやってよいのか分からない」状態だったとき、ある先輩が「資産は実在性と回収可能性、負債は網羅性、損益項目は期間帰属」という観点から数字を見れば・・・」と言われた。これらは最近の言葉ではアサーションとか監査要点とか統制要点などと言われるものである。

この中で特に負債の網羅性は資産全体の評価つまり純資産の充実とも関連する重要観点だがその立証が難しい。言い換えれば「簿外負債がないことを証明すること」については、監査を実施するにあたって「永遠の課題」だ。

週刊経営財務2809号に「背理法とは真理に背く方法と見たり・・・」という記事がある。簿外負債がないことを証明することは、背理法を使えば「帳簿に載っていない負債がある」ことを仮定してその仮定が成立するためには矛盾があるのでその仮定が成り立たないことを証明すればよい。

例えば犯罪で「アリバイ(不存在)証明」というのがそれである。ある時点である人がA地点(犯行現場)にいなかったことを証明するために、その時点ではB地点にいたことを証明できれば、人は同時に異なる場所に存在できないから、その人は犯行現場にいなかったことになるので、犯人ではないということになる。

しかし、簿外負債がないことの証明は、記事によれば(記事によらなくても経験上)実に難しいことだ。記事では簿外で借入をして、その資金で損害賠償金を闇で支払うとか不良債権の回収を仮装する、など「現実問題としてありそうなシナリオなら幾らでも描ける」と言っている。つまり背理法を使って簿外負債がないことを証明しようにも、矛盾点を指摘する以前に簿外負債の存在を肯定するような取引が幾らでも想定されるということだ。

これは監査では「不正リスク」の想定という。監査人は不正リスクを想定して監査手続を選択適用しなければならないとされているが、こと簿外負債についてはどこまで手続の範囲を広げればいいのかという点については、明確な回答は見出されていないのが実情である。

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