「虚偽表示」-報告される財務諸表項目の金額、分類、表示又は注記事項と、適用される財務報告の枠組みに準拠した場合に要求される財務諸表項目の金額、分類、表示又は注記事項との間の差異をいう。
監査基準委員会報告書200 4.定義12.(6)
着眼はあるべき報告と実際の報告との差異と定義されている点です。
ここで金額、分類、表示、注記のうち金額とそれに付随する項目(つまり定性的な説明による部分は除く)として財務諸表項目を一つのベクトルで捉えます。つまり、
\(^t\)(現金, 預金, 有価証券, 売掛金, …, 営業収益, …, 剰余金) = \(^t\)(\(y_1, y_2, y_3, y_4, …, y_k, …, y_n\))
と\(n\)個の要素を持つベクトルです。添字の\(t\)は縦ベクトルであることを意味する記号です。
いまこのベクトルの形を保ったまま、会社の決算(つまり監査意見の対象となる財務諸表)を\(Y\)、一般に公正妥当な財務報告の基準に準拠したあるべき財務諸表を\(Y^*\)と置くと、虚偽表示\(m\)は、
$$m = Y – Y^*$$
と定義されます。
このとき、監査人の認識している監査差異\(d\)は、監査人の考えている正しい財務諸表\(\hat{Y}\)との差になるので、
$$d = Y – \hat{Y}$$
となります。無論、監査人は自ら正しいと考えている財務諸表は一般に公正妥当と認められるものであると考えているはずなので、\(\hat{Y}=Y^*\)となるはずですが、厳密に一致しているわけではないことからあえて差があるものと想定します。これは上の式から下の式を引いた差分の式、
$$m-d = \hat{Y} – Y^*$$
で表され、その右辺の意味するところは監査人のバイアス\(b\)ですから、
$$m-d=b$$
つまり、
$$m=d+b$$
となり、監査人の立場から見た虚偽表示とは、監査人が認識している虚偽表示と監査人が持つ未認識のバイアスの和として表されることがわかります。
虚偽表示\(m\)を許容可能な水準まで抑え込めているかどうかを監査意見形成時に判断するは、監査人は検出した\(d\)に加えて自らのバイアスも合わせて、つまり正当な注意を払って十分な証拠を得たかどうかを判断しなければなりません。監査人としての注意義務を果たしたかどうかは、\(b\)の水準が十分低いことを挙証できなければならないわけです。