AI時代に複式簿記は終焉するか

2021年7月26日 | By 縄田 直治 | Filed in: 会計とIT.

岩崎 勇 編著(2021/02/25)

http://www.zeikei.co.jp/book/b557080.html

AI時代に複式簿記は終焉するか。

なんとも挑戦的なタイトルだが、要は「AIは経理マンの仕事を奪うか」という言い古された議論に近いものかとの割引的期待を持ちつつも、著者がどういう視点でAIや簿記や経理を捉えているのか興味を持って読んでみた。

議論の中心は簿記の機能である。その点では丁寧にこれまでの簿記の研究を俯瞰しており、あらためて「簿記とはそういうことだったのか」というもう35年も前に勉強した基本を思い起こさせてくれる。本書を読む意義はここにある。

その他、XBRL FRやGLなどの記述もあるが、標題の議論とはあまり関係がないと言ってよいだろう。

著者の結論は、二面的な捉え方など簿記の原理的な機能はたとえERPなどが普及したところで変容するものではないというところにあるが、会計の計算構造と記録の実務を橋渡しする機能が簿記である以上、(その前提を基礎として議論するなら)簿記の本質は変わらないのは当然である。

著者の言うAI時代とは、ERPやクラウドコンピューティング環境における会計システムが普及する時代(つまりいま現在)のことを言っているようだ。むしろ期待したのは、AIという存在が組織活動の価値計算と結びついた会計の世界構造をどう変えていくのかという視点であった。それが見られないのは、「人工知能」という概念が本書のどこにも明確に定義されていないことからも、その実態を明確に捉えきれていないところに起因すると考えられる。

いわゆる人工知能を受け身に捉える議論は得てして現状追認的議論になってしまうが、人工知能に何をさせるか、それをどう使うかという視点で経営管理機能の変化を議論してみたいものではある。

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