一言でいえば、よい本である。
内容は、ここ数年間で発生した不正会計事案を主として会社の公表した「調査委員会報告書」などによって、その不正の手口や発生原因、ひいては再発防止策に至るまでを、非常に噛み砕いた説明をしている。
ことに不正関連の書物は、難解な会計用語や複雑な手口等によって、内容が取っ付きにくくなりがちだが、本書は細かい部分は大胆に省略して本筋を洗い出そうという姿勢が伺える。
おそらくそれは、著者が公認会計士として不正調査等に携わってきたことと無縁ではないだろうが、著者自身の洞察力によるところも大きいだろう。不正には予防においても発見においても、それを見抜く洞察力が要求されるからである。
前半の10の事例はそれぞれに特色があるため、どの事例から読んでも興味深く読める。各事例の最後にはそれぞれの不正が発覚した会社に向けての著者からのメッセージが込められているが、それぞれに各社の特徴を織り込んだシャレになっていて、著者の遊び心が見える
後半は、不正に関わる「原因」「防止策」「発生した際の対応」に分けての解説であり、公認会計士協会の研究報告等が用いられている。
素人向けの言葉で書かれてはいるが、内容は専門家が読んでも十分に学ぶものがある。むしろ専門家こそが
不正のエッセンスを説明してみろと言われて、ここまで分かりやすく説明することができるほど、きちんとした理解をしているかが問われているのかもしれない。