守秘義務と不正

2011年4月11日 | By 縄田 直治 | Filed in: 不正.

監査で不正を発見して会社が対応を渋るとき、監査人はどう対処するか。
教科書的には、意見表明のための合理的基礎を十分に得ていないとして意見を表明しないということになるが、これには頼みの綱となる監査役がどう反応するかも気になるところだ。

そもそも監査人はその行為が不正であるかどうかについての判断は求められていないところで、「不正のような」兆候を見つけているだけの状態だから、「この会社は不正をやっていますよ」と主張するに十分ではない。
まして、監査人には法的にも守秘義務が課されており、この下での監査手続の遂行はある意味で「足枷」にならないともいえないのだ。本来は守秘義務を課すことで会社がの密が漏れないことを前提に何でも監査人には話しやすい環境を作ることが前提にあるが、さて不正(もどき)の場合もその保護に値するのだろうか。

FRAUDマガジン Vol.19 (2011年4月号) ACFE JAPANに「守秘義務と不正」というタイトルで面白い記事があったので紹介する。

この機密保持条項が適用される条件には米国の裁判で「ウィグモアテスト」という判断指針があるらしい。それによると、
1)開示されないという信頼のもと始まったコミュニケーションであること。
2)秘密性の要因が当事者間の関係を継続させるにあたり不可欠な要因であること。
3)関係構築に長い時間を要したと世間が認めなければならない。
4)当関係にきたす支障が機密保持を放棄したことで得られる利益に比べて大きくなければならない。

なるほど。
ただこれに対する反論として、基準4が、守秘義務遂行と社会的損失との比較考量を求めているとする。「不正の疑惑を外部に報告することよりも、クライアントとの守秘義務の不履行の方が、より甚大な損失をもたらすということを実証することはできない」と言っている。

しかし、不正かどうかが明らかなケースはたぶん稀なのである。不正検査士でさえも、報告書に「不正があった」という記載をすることは禁じられており、事実を報告することが期待されている。ある行為が不正かどうかはあくまでも裁判の場で決着すべきものなのだ。

この考えによって監査人に不正の告発の責任を負わせた場合、監査人は不正かどうかを調査する権限もないまま予断での告発をするか、黙秘するかしかなくなる。前門の虎、後門の狼状態だ。

監査はあくまでも経営者が正しいことをしていることを積極的に主張するという前提の下に成立している制度である。
不正の疑いがあった場合にはその前提が崩れているわけだから、合理的疑いがあった場合の対応方法は、監査人に負わせるのではなく他の手段が必要なのではないか。

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