個別財務諸表にIFRSは目的を取り違えている

2010年8月7日 | By 縄田 直治 | Filed in: 開示制度.

2010年8月3日に企業会計審議会総会が開催された。
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/soukai/20100803.html
その中(資料1 単体のコンバージェンスにあたって)で、個別財務諸表に対してIFRSを適用するかどうかという点が議論されている。

日本基準もIFRSも質の確保された会計基準であるという認識の下、「単体の会計基準の変更に伴う作成者・投資家のコストベネフィットを、具体的・実務的に比較衡量することが重要」として、一体移行のコストとして次のような例を挙げている。

潜在的税負担増のリスク
ビジネス実務(おそらく管理会計など)への影響
経営管理への影響
システムへの影響

しかし、この議論には大切なポイントがすっぽり抜け落ちているように思える。

その一つには、そもそもIFRSとは連結財務諸表を投資家が意思決定をするに有用な情報を提供できるものとして位置づけしており、個別財務諸表はその作成過程の一つであるか、まったく異なった目的の会計情報にすぎない。したがって、個別財務諸表にIFRSを適用するかという議論自体が、会計理論上の正当性から離れた、実務上の便宜としての議論でしかないという点を確認したい。

もう一つの理由は、会社法(計算規則)で定めている会計の目的は、債権者保護を目的とした資本維持原則をいかに実現するかという観点で設けられた(元々、商法がそういう趣旨であり会社法ではかなり薄まってはいるが)ものである。
会社法を前提とした個別財務諸表は、会社に対する債権者とそれ以外の当事者(主には株主だが)との利益相反を分配可能利益という形で調整しようとする原理である。これは配当や課税所得計算という側面で、企業の分配可能利益とはどうやって測定すべきかという純粋な立場を持った立派な会計基準であり、これは国家国民の利益の観点から議論されるべき問題である。

以上の2点から分かることは、IFRSは「究極のひとつの会計の姿」を目指したものではなく、投資家という社会の一存在の便宜を考えた財務情報であり、必ずしも社会的な利害対立の調整原理としては機能しないということだ。

したがって、会社法は自らのレーゾンデートルを保持するためには、IFRSは連結財務諸表にのみ適用し、個別財務諸表は別体系という形で行くべきであろう。個別決算へのIFRS適用推進論の正当化論拠には「実務の利便性」とはいうが、結局、税務目的と開示目的との二重計算を強いられる企業側の不便さには変わりがないのであり、理由としては甚だ問題がある。
さらに、上場会社の子会社の個別決算にIFRSを適用し、非上場会社には本邦基準を適用するとなると、例えば建設会社などが入札する際に提出する決算の比較可能性が確保できなくなるという問題も、きちんと議論してほしい。

Print Friendly, PDF & Email

Tags: ,

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

超難解計算問題 *