適切な監査報酬とは

2009年8月13日 | By 縄田 直治 | Filed in: 監査制度.

2009年8月12日の日経夕刊は、「内部統制」により監査報酬急増である。
http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/zaimu/index.cfm?i=2009081204342b5

監査報酬については、監査の受益者(投資家・債権者・市場関係者など)ではなく監査を受ける立場である経営者が監査報酬を監査人に支払うという「インセンティブのねじれ」が指摘されて久しい。先日、ここでもふれたように、民主党のマニフェストには監査報酬を監査役が決めるようにするといった記事もあった(結局、そのソースは未だにはっきりしないが)。
筆者は必ずしも監査役が報酬を決めることには賛成しない。例えば持株会社支配下の監査役など、株主(つまり親会社)の意向に沿うことはできても、それ自体が親会社の「監査報酬削減政策」を受けての場合には、制度によるなんらの効果も期待されない。そもそも誰が報酬を決めたとしても監査報酬を適切に算定する方法論(監査リスクと監査時間との関係を示す方法)がなければ、根本的な解決にはならないからである。

監査報酬が適切かどうか、極めて分かりにくいのは、次のような事情がある。

  • 1.そもそも報酬に「市場価額」がない。
  • 2.必要な監査手続についての情報の非対称性が大き過ぎる。
  • 3.「相見積もり」といった手続によらないため、参考価額がない。
  • 4.監査対象の個性の違いが大きく、同業態・同規模の会社であっても、取引先や経営方針、経営者の姿勢によってはまったく監査リスクが異なるため、手続レベルが均一にならない。
  • 5.監査リスクと監査報酬とは正の相関関係があるが、監査リスクと会社の収益性とは負の相関関係がある。したがって、その負担感は会社にとって二重に効いてくる。他方、業績がいいことを理由に監査報酬を上げる会社はない。
  • 6.監査の作業は直接的には会社にとってメリットよりもむしろその対応への負荷が大きいため、会社側の協力が積極的であるか義務的であるかによっても、監査効率に大きく影響が出る。また、監査調書の作成などは専ら監査人のためとの認識があり、会社にとっては「無駄」にしか見えない。
  • 7.会社の内部統制品質が悪い(書類の整備が悪いとか、担当者の基礎知識が不足しているなど)場合には、監査効率が落ちるが、会社はそこに原因があるとは思っていない。
  • 8.報酬を「値切る」ことにレーゾンデートルを見出す会社スタッフは、監査手続の必要性の理解にたってそれを効率的に遂行させることよりも、まず表面的金額の削減のみを目標とするため、本来解決すべき問題が先送りされ、結果的に監査時間削減の可能性を残したまま、目先の金額削減に議論が終始してしまう。もちろん監査人側の指導力にも問題がある。
  • 9.監査品質は比較ファクターが分かりにくく数値化して測り難いため、品質よりも時間削減に目が行く。しかし監査法人側は品質維持が究極の課題である。
  • 10.そもそも監査を受けることによる受益者は市場関係者という一般認識があるが、実際は情報に信頼性を付与することによる資本コストの削減が図られているところ、それが目に見える形では現れない。

監査は毎期交代するよりも継続するほうが効率的に行えることは、関係者なら誰でも理解している。つまり、継続による効果を会社側と監査人側とがうまく分け合えるようなよい協力関係を築くことが何よりも大切なことである。

まったく別の議論として、監査コストは証券取引制度を継続的に維持するコストとして考える必要がある。そうすると、上場会社については有価証券取引税による投資家の負担、有価証券発行税による発行体の負担、時価総額による有価証券保有税による負担なども考慮してはどうなのだろうか。また、その配分については監査リスクが適切に反映されるような仕組みが必要であり、監査人の交替以外にも監査対象会社の投資リスクが定量的に明らかになるような方法論(例えば倒産リスクと監査報酬との関係など)が欲しいところだ。

保険機関が倒産リスクを査定し、これに基づき監査スペックを保険機関が定め(もちろん監査人としての注意義務は残したまま)監査人を募集し、倒産リスクを限定した上で入札するような形になれば、市場関係者が負うべきコストは保険機関に、リスクに応じた作業時間を最小にして実施できる監査人が落札できることになる。むろん、そうなった暁には、監査は単なる「作業」と化し、保険料が莫大になり、結局、倒産リスクを適切に算定するには・・・・といった同様の議論の繰り返しになるのだろうが。

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