会計基準よ、原点に帰れ

2009年7月26日 | By 縄田 直治 | Filed in: 制度会計.

IFRSを検討しているIASBが7月14日に発表した素案によると、有価証券の評価基準を「償却原価法(減損テスト含む)」と「公正価値法」の2区分に簡素化することを検討しているらしい。
日本を含め、IFRSも米国基準も、有価証券評価は、「売買目的」「満期保有」「その他」「関係会社投資」の4区分である。連結財務諸表を前提とすれば、関係会社投資は連結消去されるか持分法評価されるため、実行上は3区分である。これらは経営者の所有意図による分類と考えてよいだろう。したがって同一銘柄の株式であっても、売買目的であれば時価評価して損益計上され剰余金に影響するが、そうでなければ「その他有価証券」として時価評価差額が純資産に加減される。
新たな素案では、ローンの形式で契約利回りとなる金融商品に対して償却原価法を採用し、その他は全て「公正価値」で評価させようとしている。
その理由が面白い。

To improve the ability of users of financial statements to assess the amounts, timing and uncertainty of future cash flows by replacing the many financial instrument classification categories and associated impairment methods in IAS 39 Financial Instruments: Recognition and Measurement.
「財務諸表利用者が、将来キャッシュフローの額、時期、不確実性を分析する能力を改善するため」「IAS39との整合を図るため」

測定対象に対してこちらのほうがより的確な測定結果が算定できるからであるとはしていない。また公正価値という考え方も、理念としては分かるが、なぜその測定方法が「公正」なのかについては説明していない。将来キャッシュフローをあらわすことが適切と考えるのであれば、はじめから「全ての有価証券の貸借対照表価額は将来キャッシュフローの額で測定する」と決めればよいだけではないか。
保有目的による区分は、もともとは同一有価証券であっても将来キャッシュフローが目的によって変わるからであって、それを反映した結果が、満期保有目的を別枠にしたものである。端的に言えば、貸借対照表に有価証券が計上されているということは、期末日現在では売却するよりも保有するほうが将来キャッシュフローが大きくなる(有利)という判断をしたからだという前提がなければならない。この時点で既に市場価額と経営者の考える将来のキャッシュフローとの間に差があることになる。
会計基準が「公正価値」を標榜する限り、財務諸表の利用者は貸借対照表が「公正価値」を表わしているものだと誤解してしまう。
比較可能性を図るためには、会計基準は誰によっても同じ数字が算出される「方法規準」であるべきだ。そうしなければ、もう一つの目的である、

The proposals also answer concerns raised by interested parties during the financial crisis (for example, eliminating the different impairment approaches for available-for-sale assets and assets measured using amortised cost).

について満たすことはかえって難しいのではないか。但し、方法論に偏りすぎると米国基準のような微に入り細に入りルールを決めて収拾がつかなくなる呪縛に陥る可能性がある。
会計基準から経営者の主観を排除することは難しい。だからこそ、どういう主観が数値に反映されているかを開示させるほうが、よほど意味があるはずなのだ。「適正に評価」という当たり前のことを基準に置く様になっては、会計基準としての存在意義を放棄しているといわれてもやむを得ないのではないか。会計の限界を素直に認め、開示制度の改善にエネルギーを向けるほうが、公の利益になると考えるが。

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