会計士協会:「継続企業の前提」に関連する実務指針改正案

2009年4月11日 | By 縄田 直治 | Filed in: 監査制度.

JICPAが、継続企業に関する財務諸表規則の改正と監査基準の改訂を受けて、監査実務指針等の改正案を公表し、意見募集をしている。この際なので、疑問点も含めて以下のコメントを送ることにした。

監査・保証実務委員会報告第74号に対するコメント

そもそも論だが会計士協会が企業側の開示の基準を定める必然性はあるのか。

2.継続企業の前提に基づく財務諸表

巷間、GC注記について「倒産情報」といった誤解が強いのは「継続企業前提に立った財務諸表が事業活動の継続性を保証するものではない」という記載が邪推(まして、継続企業前提の注記がついた財務諸表は、継続性を保証されない)をもたらしているのではないか。
また「財務諸表に計上されている資産及び負債は、将来の継続的な事業活動において回収又は返済されることが予定されている。」という限定的記載ではなく、「一連の企業会計の基準は、継続企業の公準を前提とした認識・測定の方法を採用しているため、この継続企業公準の前提に立てない場合には、それと異なる認識・測定方法を用いて財務諸表等を作成しなければならない」と、純粋に会計の話として記載したほうがよい。

4.継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況

例示そのものには異論はない。
但し、根本的な問題であるが、「継続企業の前提が成立しない場合とは」についての、明確な定義が監査基準を含めどこにも記載されていないので、本来は会計基準であるにもかかわらず、事業活動の継続性と同等のものとしての誤解を抱かれる原因となっていると考えられる。したがって、以下のような定義を入れた上で、例示すべきではないか。

「継続企業の前提が成立する場合とは、貸借対照表日の翌日から少なくとも1年間にわたり企業が事業活動を継続できると合理的に推定できる場合をいう。したがって、たとえば以下のような場合には、継続企業の前提が成立していることに対し疑義を抱かせる事象又は状況にあると考えられる。」

6.継続企業の前提に係る評価期間と検討の程度

監査人および経営者評価の共通の基準(判断のための指針)として、「1年間の運転資金が維持できるかどうか」という観点を明記してはどうか。すなわち「事業活動が維持できるかどうか」という会計公準の前提を、運転資金という指標で判断すると整理してしまうということである。
極端な思考ではあるが、持株会社が事業会社を売却して資金を維持した場合、事業は他社で継続し、持株会社には資金が残ることになるような場合に、事業は継続しないが会社は継続することになるが、本基準では事業という言葉があいまいに使われている。また、資金を指標とすることで、疑義事象(原因)を踏まえて、経営者の対応の結果としての資金計画という関係が成立するので、客観的な説明が可能となる。

7.注記

「重要な不確実性」については、今回の改訂の主旨であるが、重要な不確実性があって監GC前提に立った財務諸表の作成を適切と認める場合については、末尾文例ではなく本文中で言及すべきである。付録の参考文例から読む限りでは、経営者の対応策に合理性が認められるものの、その実現可能性についてははっきりとした根拠がない場合と読めるので、5の項で、経営者による対応の合理性と実現可能性という二つの側面で検討することを明確にし、重要な不確実性がある場合とは、経営者の対応に合理性はあってもその実現可能性(蓋然性)が明確とは言えない場合の結果として生ずるものとして明示してはどうか。
また、重要な不確実性があるにもかかわらずGC前提に立って財務諸表作成を適切と認める経営者の判断根拠を開示させるべきではないのか。

その他
実務上の引用等の便宜から、各段落に通し番号をつけていただきたい。

監査基準委員会報告書第22号に対するコメント

2項 「親会社」とあるが「提出会社ないし計算書類作成会社」ではないか。

3項 「継続企業の前提の下では、財務諸表に計上されている資産及び負債は、将来の継続的な事業活動において回収又は返済されることが予定されている。」における回収返済という言葉は金銭債権債務のみを想像させるので、 「継続企業の前提の下では、将来の継続的な事業活動を踏まえて取引が認識・測定され財務諸表に反映されている。」としてはどうか。
3項末尾 「重要となる」⇒「財務諸表の利用者にとって重要となる」として有用性の対象者を明らかにしてはどうか。

7項 74号も同様だが、監査人が対象とすべき経営者の対応策はその(疑義の解消策としての)合理性と実現可能性であると対応策としての要件を明記してはどうか。重要な不確実性の概念が、「合理性はあっても実現可能性が高くない」という形で明確になる。従来の実務では実現可能性が高くなければ意見不表明になっていた点を意図して整理されたとあるので、逆に捉えれば実現可能性が高くなくても企業側がその旨を適切に注記すれば、適正意見を表明せざるを得ない監査人のリスクを軽減させる必要がある。

17項 「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況に関する重要な不確実性が認められるか」とあるが、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況に関する経営者の対応策を評価した結果なおも継続企業の前提に重要な不確実性が認められるか」ではないか。
また、「継続企業の前提に関する適切な注記が、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を財務諸表の利用者が適切に理解するために必要であると監査人が判断した場合には、継続企業の前提に関する重要な不確実性が存在していることになる。」とあるが、判断根拠と判断結果とが転倒している。「継続企業の前提に関する重要な不確実性が存在していると監査人が判断した場合には、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を財務諸表の利用者が適切に理解するために継続企業の前提に関する適切な注記が必要である。」ではないか。すなわち不確実性が認められる状況とは、経営者の合理的な計画が実現可能性が高くない部分が含まれることによる継続性全体への疑義がある場合との見解を明らかにしておく必要がある。

18項 重要な不確実性がある場合でGC前提が適切な場合と、適切でない場合の判断基準が示されていない。もともと重要な不確実性があるにもかかわらず適正意見を表明することは監査人にとって結果的に相当高いリスクを負うのであるから、適正意見を表明した後に不確実性が顕在化した場合であっても宥恕されるような条件をいれておく必要があるのでは。

発効適用時期について
本来は、監査人のみならず企業側をも含めた周知期間をもって慎重にことを進めるべき事項であるが、監査基準が改訂された以上は即時対応もやむを得ない。
しかし、仮に平成21年3月決算から対象とするにしても、既に監査報告書を提出しているケースも稀ながらもあると考えられるため、対象年度のみならず本報告の公表された日の翌日以降の一定日から発行される監査報告書について適用するという形にする必要がある。

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One comment on “会計士協会:「継続企業の前提」に関連する実務指針改正案

  1. 2009年4月20日金融庁より、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの結果等について(http://www.fsa.go.jp/news/20/sonota/20090420-2.html#bessi)が公表された。
    また、21日会計士協会より「継続企業の前提」に関連する実務指針の改正について(http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/post_1122.html)が公表され、一連のGC制度に関する改訂は極めて短期間で実施された。

    実務への周知期間がなかったことや、特にGC情報を利用する立場の理解が十分に行われていない可能性があるため、今期の取扱いには混乱があるかもしれない。

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