IFRS導入への期待と不安

2009年3月29日 | By 縄田 直治 | Filed in: 制度会計.

2月に金融庁がIFRS導入に向けてのロードマップを示してから、日本ではほぼIFRSの導入は事実上容認された感がある。むしろ導入時期を何時にするかという次元に話が進んでいると言っても過言ではない。

言語が異なれば通訳が必要なように、企業活動の数値表現がローカルルールで決まり国によって測定された情報の変換が必要というのは、企業活動が世界展開しお金が情報として世界を駆け巡る時代において、利便性を著しく損なうことになる。IFRSという方法は一つの解決策であり、その導入は時代の大きな流れと前向きに捉えたい。

IFRSが原則を重視した基準であって、詳細な規定を持たないというのも、世界的普遍性を持たせる上で存在理念として大きな意味を持っている。

日本の会計は、会計ビッグバンといわれた頃から、連結主体、退職給付、金融商品、税効果などの基準の整備がなされ、最後まで「独自性」を主張してきた企業結合会計で持分プーリングを廃止したことで、会計基準としてはほぼ同じ内容になってきたと評価されている(同等性評価)。

ただ制度の導入に当たってむしろ心配なのが、原則重視という考え方である。日本も会計ビッグバン以前は企業会計原則を中心として原則的な考え方が成り立っていた。しかしとかく原理原則を議論することを嫌う組織体質のある中では、「柔軟な対応」とか「大人(おとな)の対応」といった言葉で判断についてお茶を濁すことが、あたかも優秀な実務家であるかのような評価がなされてきたことも事実である。

それを否定するが如く細則を取り決めるようになってきた結果を象徴するのが、毎年分厚くなる監査関係の法令集であり、会計の原理原則を語らず詳細規定に精通する監査人の跋扈であった。

原則に基づいて判断するには制度の趣旨や情報に対する世の中の受け止め方などに相当な洞察力を必要とするので、細則が用意されていて「ここに書いてあります」といった対応はできなくなる。文字通り「大人(たいじん)の対応」をしなければならなくなるのだが、さて、日本に限らず大手の国際的会計事務所のマニュアルはそういった人材を養成してきているのだろうか。

文化の違いを吸収するのが制度であるはずだが、制度の運用を変えてしまうのが文化でもある。IFRSの導入は、日本の会計実務家が原則論に立脚した議論ができるようになるかが問われているのであり、おそらく会計実務以上に監査実務に多大な影響を与えることになるだろう。またそういった原則論をきちんと学ぶ場所はやはり大学でありゼミナールや指導教官との議論であることを鑑みれば、会計制度のインフラとしての大学教育のあり方にも大きな影響を与えるだろう。

くれぐれもIFRSの運用に当たっての「監査実務指針」が分厚いものにならないことを願っている。

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