天下の愚策=時価会計凍結論

2008年10月17日 | By 縄田 直治 | Filed in: 制度会計.

ここ最近の金融不況「対策」として時価会計を凍結するという記事が今朝の日経新聞一面に出ていた。当然、このアイデアには反対の立場であるが、そもそも会計制度に政治が口を出すこと自体が、会計の公正さを捻じ曲げていることを忘れてはならない。仮に、凍結が挙行された場合には、今後、会計制度は政争の具として扱われ、結局は実務界が尻拭いに振り回されることになるにもかかわらず、全銀協や経団連が反対するどころかむしろ後押しするのは、どういうことなのか。

1.結局、時価評価を止めてよくなるのは、「見た目の決算数字」だけである。会計上の評価を変えたところで、企業の置かれている実態のリスクが変わるわけではない。

2.むしろ情報としての価値は下がる。

3.企業側がとったリスクに関して、経営責任ではなく会計制度に問題があったという逃げ口上を与える(この辺が、経済団体などが賛成している理由だとすると、もはや日本にコンプライアンスとか経営者倫理という話はなくなったものと思うべきだろう。)。

4.会計制度がどうなろうと政治家は痛くも痒くもないが、変えることが出来れば、「対策しました」と豪語できる。

5.リスクのある金融商品の販売方法や市場整備の問題ではなく、会計制度に問題があったかのような誤解を世間に定着させる。

全く以って論理のすりかえも甚だしい。結局は、一時しのぎによる問題への対応が遅れる。だけである。あるいはほとぼりが冷めるのを待っているのだろうか。

こういう愚作を放置していいのだろうか。
麻生政権最大の汚点になるだろう。

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2 comments on “天下の愚策=時価会計凍結論

  1. 2008/10/23に会計士協会の会長が、以下の声明を発表。
    業界にも良識が残っていた。

    ——-
    会計基準が、企業の実態を反映する鏡であり、投資家に対して意思決定情報を提供するための財務諸表に関する基準であることから、金融市場の混乱を契機に金融商品の時価評価を凍結することは、到底、賛同できない
    ——-

  2. 2008/10/28 企業会計基準委員会から、実務対応報告25号「金融資産の時価の算定に関する実務上の取扱い」が公表された。
    質問が多く寄せられた事項への対応となっており、特に新たな基準が出たわけではない。

    中でも当たり前のことであるが敢えて「時価」概念が再確認されている。さらにその中で、「合理的経済人仮説」が貫かれているところが面白い。

    曰く、「取引当事者の一方である企業の経営者は公正な評価額を構成する合理的に算定された価額を算定することが期待されている」

    また曰く、金融資産を取引する当事者は、

    (1)その金融資産の内容、構造、仕組みについて、特に当該金融資産がもつ固有のリスク及びリターンの特性を理解していなければならない

    (2)不利な条件で引き受けざるを得ない取引又は他から強制された取引ではなく、自らの経済的合理性に基づく判断により取引を行うものである
    ————
    リスクをとるのは経営者の経済的合理性の判断であり、その顕在化による会計処理は「想定し得なかった」という言い訳をするまでもなく、淡々と執行することである。

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