Key Controlの識別

2007年12月24日 | By 縄田 直治 | Filed in: リスク対応と統制手続.

内部統制の評価においては、経営者評価や監査人による監査の双方において、いわゆるキーコントロールの識別が求められる。実のこのキーコントロールの識別は、さらっと書けるほど簡単ではない。そもそもコントロール(統制手続)と手続との違いが理解されていないケースが多い。

誤解を恐れずにごく簡単に説明すれば、組織活動においてリスク軽減の目的をもって行なわれる活動を定めた手続を統制手続という。つまり、

統制手続=手続+リスク軽減の意図

である。

統制手続はそれ単独では存在せず他の手続との組合せで機能するが、その結果としてリスクが軽減できるのかどうかが、デザインの有効性の議論であり、実際に機能するように使われているかどうかが、運用の有効性の議論である。すなわち統制手続は常に整備者及び運用者によってリスクを軽減する意図と実際の効果とを伴って扱われていなければならない。
「○○をすれば統制手続として十分」とは絶対に言い切れない所以である。

さて、表題のKey Control(主要な統制手続)の識別であるが、数多ある統制手続の中でこれをきちんと識別することができれば、監査工数が軽減されるだけでなく、内部統制の整備に当たっての優先順位付けや重要度の判断においても役に立つ。主要な統制手続の判断は、「その統制手続が有効でないと判断された場合に、(アサーションが否定される)
リスクを軽減するために他に多くの統制手続の有効性を立証しなければならないとき、その統制手続は「主要な統制手続」たり得る。

財務報告に係る内部統制の場合には、通常、科目のアサーションを直接的に保証するような監査証跡に係る手続である。例えば売上金額の正確性といった場合には、客先と合意した書類(例えば契約書)が監査証跡としては通常は最強である(但し、当たり前だが反証があれば別である。)。他には納品時の物品受領書の金額、請求された入金された金額、などがあるが、これらは契約に基づいて作成されるもので企業内部で作られるものであるから、証拠としては補助的な位置づけとなる。

この最強の証拠が契約書であることが分かれば、契約書に基づく帳簿上の売上金額が記録され契約書と照合する手続が原始的にどこで行なわれて帳簿作成までどのように保持されているかを理解する。
仮に受注時に受注台帳に記録され、その後は変更契約がない限りずっとその金額で入金管理までその記録が利用されるとすれば、受注台帳と契約書の照合が最も重要な統制手続となろう。

なお、請求時や入金時に金額の間違いに気がつき受注台帳に遡って検証することがあれば、これは補完的な統制と位置づけられるだろう。しかし、そもそも契約書と受注台帳が一致するという前提が成立していなければ、請求時や入金時に間違いに気がつくだけでは、仕事が回らない。したがって、補完的統制はあくまで「補完」であり主要な統制手続とは位置づけられないのである。

次は、売上の実在性を取り上げてみよう。売上の実在性とは、顧客に対して商品やサービスを契約どおり給付した事実の裏付けがあることだから、例えば在庫商品が顧客に渡っている記録、運送業者による搬送記録、顧客による受領の記録などが監査証跡となる。ここでも外部証拠を得るとすれば、やはり顧客による受領記録(物品受領書など)が最も強い証拠となることから、この最強の証拠と会計記録とを照合する手続が主要な統制手続と位置づけられよう。

ここで注意すべきことは、物品受領書をもらうことが主要な統制手続ではなく、あくまでも物品受領書と会計記録とを照合するところにポイントがある。確かに物品受領書は客先が発行するものであるから、架空売上の防止には役立っているから、立派な統制手続である。しかし、物品受領書をもらうだけでは、会計記録が正しくなされていることの検証にはならないし、それ以外に架空の売上がないことは保証されないため、主要な統制手続とはならないのである。

主要な統制手続(Key Control)の識別が難しいのは、このように普段、何となく動いている現場実務を厳密に会計記録の信頼性という観点から捉えた場合に、必ずしも普段の仕事が主要な統制手続を意識して行なわれているわけではなく、どちらかというと、顧客志向の品質の確保やサービスレベルの向上といった観点から組み立てられていることが多いからである。上記の物品受領書も、在庫の盗難・横流しを防止するとか、請求ミスを防ぐといった業務目的で用意されているのが普通である。転じて考えれば、財務報告に係る内部統制とは、こういった日常業務のなかに財務報告目的に使える諸手続が存在しており、それが財務報告上のリスクを軽減する活動とつながることで、統制手続としての魂を入れられることになるのである。内部統制を通じて日常業務を見直すという意味はここにある。

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