内部統制は「適正」証明になじむか

2007年5月11日 | By 縄田 直治 | Filed in: 財務報告統制.

ISO9000(環境)、ISO14000(品質)、ISMSなどはいずれもライセンスを持った認証機関により「認証」が行なわれているが、監査の場合は監査法人ないし公認会計士事務所による「証明」が行なわれる。

認証と監査証明とがどう異なるかという問題は議論があろうが、学術的な見解は別として、自分の理解は、証拠の積み上げで結論が出されるのが認証で、証拠の積み上げによって心証形成されたものが監査証明であると考えている。

前者の場合、認証要件を満たさない点があれば自ずと認証されないが、後者の場合、
一部の要件に不備があっても最終的な心証が形成できれば「適正」となることもあり得る。他方、個々の証拠の正否と総合的な心証の間には、言いようのない「距離」のようなものがあるような気もする。

例えば健康診断で、血液、尿などの試料検査結果や、レントゲン、MRI、CT、問診などを経て医者が出す結論は「異状なし」であって「健康」ではない。ある個人が健康であるかどうかは、その精神状態や生活習慣などを含めて考察する必要があり、「健康」に期待するレベルは、例えば老人と働き盛りの人と子供と乳幼児とでは異なる。健康診断の名の下に行なわれているのは、合意された手続に基づく検査結果の寄せ集めで異常値が示されていないことでしかない。では、何処まで見れば「健康だ」と主張できるかは、結局、検査医ではなく検診を受けている当人が健康診断の結果データと照らし合わせて判断するしかないのではなかろうか。

会計監査で「適正」と表明するためには、一つは会計制度に則して会社が会計処理をしているかという判断があるが、その前提には取引実態に則して会計処理されているかという判断があり、さらに会社の置かれている環境などを勘案して、全体としての財務諸表が会社の実態を表現しているかどうかという判断がある。

心証形成のためにどこまでの証拠を組み立てればよいかは、まさに心証形成者に委ねられているわけであるが、他方で「十分な監査を行なったか」とケチをつけられた場合に、全ての人が同じ心証形成をしてくれるという保証がどこにもない。
難病ほど医師の診断は分かれるとすれば、いわんや監査においてをや。

まして、財務報告に重要な虚偽表示がないことを保証する仕組が確立されているかどうかについての心証形成の方法など千差万別各人各様であろうとも思える。そういった問題を解決しないまま、事実先行で制度が走り出したことを危惧している。

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