発生主義と発生基準

2007年3月9日 | By 縄田 直治 | Filed in: 監査会計用語.

発生主義といった場合、現金主義と対比して使われることが多い。すなわち、企業活動における損益を認識するに当たって、現金の流入・流出をもって収入・支出を認識し差額としての企業活動の成果を算出するのが現金主義会計である。一方、現金の動きはその元になっている「価値」の異動があることを前提とし、その価値の異動を収支測定の根拠とするのが発生主義会計である。

現金主義会計は、人によって解釈の異なる「価値」というあやふやな概念を持ち出さず、「現金」という実態を認識・測定の根拠としているため、極めて客観的で分かりやすいという性格を持つ。しかし現金の授受も取引条件の一つであり、例えば「引渡後3ヵ月後に現金払い」などの支払い条件があった場合には、企業の付加価値創出活動は終了しているにもかかわらず現金の授受がないために業績が測定されないという問題を孕むことから、発生主義会計という枠組みが生まれたものと考えられる。

発生主義の枠組みでは、収益は「実現」しているもののみが計上される(=実現基準)。一方で、費用は価値が費消される事実が「発生」しているものが全て計上される(=発生基準)ことから、収益獲得のために要したコストは収益と対応させるために収益認識までコストの認識を遅延させるという「収益・費用対応の原則」が貫かれねばならない。そうしなければ差額としての付加価値の測定ができないからである。物を売る商売が、実際に物が引渡しされるまで「棚卸資産」として仕入費用を繰延べる考え方が生まれてくることになる。

しかし実務界では、この実現基準、発生基準が実現主義、発生主義という用語で表現されていることが多い。つまり利益測定の枠組みとしての発生主義と、発生主義の枠組みの中での損益の認識基準としての発生基準が混乱しているのである。したがって発生主義会計の枠組みの中で、現金の授受を基礎として損益を認識する現金基準を採るケースにおいては、「当社は発生主義ですが支払利息は現金主義(現金基準の意)です」という珍妙な会話が交わされることがある。

 

 

 

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