2009年12月19日の日本経済新聞14版によると、民主党の政策の一つである(らしい)公開会社法に企業の法務担当者の七割が反対しているとか。理由としてはガバナンスの強化が機動性を削ぐといったことらしく、至極ごもっともな意見ではある。しかし報道記事は、どういう質問をしたのかもどう回答を求めたかも不明な中で、七割反対という数字が出ているので、その質には懐疑的になるべきだろう。
そもそも「構想」がどういう内容なのか詳しくは判らないのだが、その中には金融商品取引法と会社法とで別建てになっている会計開示制度の統一化など企業側が求めてきた課題の解決も含んでいると何かで読んだことがある。
公開会社法構想が本当なら、もっと根本的な問題をきちんと整理していただきたいことがある。
それはIFRSの導入が日本でも事実上ほぼ確実となってきているなかでの、今後の会計制度の位置付けをどうするかという点である。
旧商法の会社計算規定は債権者保護を主旨とした会社財産の保全規定として、分配可能利益の制限とその算定根拠となる資産の評価規定で構成されていた。
旧証券取引法は投資家保護を主旨とした証券の発行流通市場の健全な運営を図るために、企業内容の開示促進と開示情報の公正さを確保するための諸規則を、会社計算規定に乗っかる形で制定してきたところである。
いずれも経済社会が健全に維持されるために必要な制度趣旨であるが、その大前提としては企業会計原則によって確立された会計諸規定が日本社会に共通認識として存在していた事実は忘れてはなるまい。
しかし会社法で連結計算書類が導入され、よりリスク開示指向が強まるとともに法制度全体として求めようとしている経営責任の範囲がどこまでなのかがかえって曖昧になり、金融商品取引法は本来は会社法制で手当てすべきガバナンスの強化策を、開示の充実というすり替えた形で実現しようとして来たため、会計という側面から見たときの両者の違いが薄くなってきている。さらに、本来は異なった段階で議論されるべき、公正な測定方法(目的中立的存在)としての会計と、ルールとして皆が公平に守るべき(目的指向的存在)会計情報開示との区分けが曖昧になってきている。
そのような動きの中での唯一の会計基準としてのIFRSは公正中立な会社の財務内容を諸元として提供するものであってほしいはずだ。
しかし残念だがIFRSは最初から投資家の役に立つ情報開示という観点に限定して制度構築を図ってきているため、公平な課税目的とか、債権者保護といった目的のための会計規定とは全く違った方向に離れていく可能性は十分にある。さらには企業活動が本当に付加価値を形成しているのか、さらにはその測定方法が企業の付加価値を表す手段として適切なのかといった議論は切り捨てられる恐れがある。
開示制度としての単一化は事務負担の軽減に大きく貢献するだろうが、その前提として会計が「一般に公正妥当」である必要性を忘れてはならない。一般にとは多目的にということでもある。IFRSがGAAPであるとどうして言えるのか、手続論と本質論と目的論との観点からきちんと押さえておかないと、開示制度自体が空洞化してしまう。最後には、市場だけが残って社会は衰退するという本末転倒な結果をもたらす危険性のある法制度となりかねないことを念頭に置いて議論してほしい。
妙なきっかけから探していた資料が見つかったので、忘れないように記録しておく。
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/s_group/siryou/20090318.html
第20回我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ議事次第
日時:平成21年3月18日(水)10:00~12:00
場所:中央合同庁舎第7号館13階 共用第1特別会議室
上場会社等のコーポレート・ガバナンスのあり方について
スタディグループの議論はこういう形にまとめられた。
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20090617-1.html
平成21年6月17日金融庁
金融審議会金融分科会「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」報告の公表について
公開会社法要綱案と民主党の公開会社法とは内容が異なるらしい。
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2009/10/post-07b7.html
2010年2月24日法制審議会へ以下の諮問が出された。漸く動き出したか。
http://www.moj.go.jp/SHINGI2/100224-2.html
会社法制について,会社が社会的,経済的に重要な役割を果たしていることに照らして会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保する観点から,企業統治の在り方や親子会社に関する規律等を見直す必要があると思われるので,その要綱を示されたい。