ビジネス・データマイニング入門

2010年12月30日 | By 縄田 直治 | Filed in: ブックレビュー.


個々の取引の蓄積から決算情報を作成するという積上げ方式の会計情報は、IFRS以前のおそらく16世紀の大航海時代の始まりからのパラダイムである。
大量な会計処理は階層化され複雑さを呈するに当たって、会計監査において人間が帳簿をめくりながら会計取引を実証していくという手法は堅実であるものの、その網羅的把握は量的限界が出てきている。そこで漸く注目されているのがCAAT(Computer Assisted Audit Technic)なのだが、20年前も同じことを言っていたのでIT(ハードおよびツール)の進化はあっても監査技術はさほど進歩していないのだろう。これは会計士個々人が伝統的監査技法に囚われ、内部統制評価などの監査概念は新しくなってきても、当の実証テストについてはなんら技術的進歩がないことを露呈している。

本書のテーマであるデータマイニングとは、取引などのデータの山(鉱山)から人間にとって意義のある関係性を見出して、経営戦略に活用しようというアイデアである。こういった新しい技術・技法が世の中には出てきていることを、監査人は知るべきであり、業務への活用を試みるべきである。さもなくば、技術の進歩を活用した別の業種業態が監査市場に参入してくることは間違いないとは、かねてより主張していることである。

データマイニングと監査との関係は、どこかで研究されているのかも知れないが、筆者が注目しているのは不正の検出である。CAATにおいて不正の検出を行うには、不正仮説を立ててから該当するデータを抽出する手法が用いられる。例えば、「取締役クラスの人物が休日に出勤して取引を入力している」といったことに対して「異常」と判断すれば、それを特定項目として抽出し実証するという流れを取る。しかしこの方法は、監査人の仮説立案力が問われる。もちろん通り一遍の取引抽出法を適用すればある程度のことはできるのだが、監査人の仮説の域を出ないという点において不正を網羅的に把握しているかどうかと問われると、かなりの不安要素がある。

そこで活用されるのがデータマイニングである。会社の取引パターンから非通例的な取引を抽出するにあたって、そもそも非通例的とされる要素がどういったところにあるかを見出すのがデータマイニングである。つまり、監査人が仮説できない取引パターンを抜き出して「これは怪しいのでは」と警告を出してくれることが期待される。といっても怪しさを監査対象として考慮するかどうかは監査人の資質に委ねられているので、もしデータマイニングが監査で普及してしまうと、マイニングされたものは全て検証しなければならないといった本末転倒なルールができてしまったりする危険がある。そのときが、プロフェッショナルによる監査という考え方の終焉である。

本書は、データマイニングの基礎的な概念と市販されているソフトウェアを使った「さわり」の部分を教えてくれる。おそらく大学生向けの教科書なので、内容はかなり簡単に書かれているが、ニューラルネットワーク、決定木、クラスター化、関連付けによるパターン発見などの概念が広く紹介されているので、この分野における知識がゼロの人が一歩踏み出す入門書としては適しているだろう。

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