WICI 2010 Symposium

2010年12月4日 | By 縄田 直治 | Filed in: 統合報告<IR>.

2010年12月2日早稲田大学にて開催された同シンポに参加してきた。

 http://www.nikkeipr.co.jp/wici/

 今回は、前回よりも参加者が多くパネルも多様な方々が出て意見を述べられるなど、かなり充実した内容となっている。残念ながら、仕事の関係で2日の午後のセッションの一部しか参加できなかったが、得るものは多くビデオ等が残されていればぜひ見逃したところも追加学習したいところだ。

シンポの問題意識の底辺にあるのは次の通り。

1.世界はIFRSの方向へ向かっているが、これで本当の企業活動の姿は開示されるのだろうか(否)。

 2.では開示を「充実」するには従来通り開示項目を増やしていけばよいのだろうか(否)。

 3.投資家は未来志向であり過去の情報よりも未来についての情報を欲しがるが、業績予想を開示すればよいのだろうか(否)。

4.業績以外の開示(環境活動など)が盛んだが、これは業績とは離れて考えてよいのか(否)。

5.規制当局はもっと開示を「充実」させるために、項目を増やしているが、本当に役に立つ情報を開示させているのか(否)。

上記のような問題意識の下に議論された項目は有意義だった。

 1.利用者(投資家・アナリスト)からすれば、意思決定に割ける時間は投資案件によってほぼ決まっているため、短時間で判断できる比較可能な情報が必要である。

2.他方、CSRやESGのように企業の活動については開示が必要だが、単にやっていることを開示すればよいということではなく、企業が捉えている社会的問題についてどのように企業は関係しており、その問題にどう取り組むか、そしてその結果として財務にどのような影響を期待する(ないし結果を出す)かという「ストーリー」として、開示する方向になるだろう。

3.自ずと開示される情報にも「情報の構造体」があるので、並列的に何でも並べて開示するのではなく、ストーリーに照らして必要なデータがそろっていることを確認する必要があろう。

4.これに対する規制の動きは、東証の決算情報の開示(短信)が表紙1ページ以外は各社の任意開示になったことが象徴的なように、企業側の判断による主体的な開示を促していき規制により一律に開示される方向とは逆に向かっている。

5.会計規制がPrinciple Baseになるということは、会計処理の細かい規定を自分で考えろというだけにとどまらず、むしろ企業側が、数値の意味付けをストーリーの中できちんと説明可能な状況にできるように企業が自主的にそれを構成することが必要だ。

金融庁企業開示課長古澤氏が個人的意見と断った上で(※わざわざ断る必要もないのだが)、これからは金融商品取引法の有価証券報告書の虚偽記載という行為を規制するハードローの世界と、取引所などの関係する機関での自主的な取り決め(これは関係者の協議を経てあくまでも主体的に取り組むもの)にしたがって、相互監視する仕組みとしてのソフトローの世界とで規制のバランスを考えていく必要があるという話をされた。

モデレータの花堂教授は大変有意義な発言と持ち上げられていたが、これが本当に実現できれば、本来の企業内容開示の在り方に近づくことになる。開示にかかわる公認会計士の仕事も単なる決算数値の妥当性を検証するだけではなく、開示の本来のあり方などより経営に近いところでの議論ができるようになると期待するところだ。

以上のような経緯から、世の中の大きなウネリが一つやってきたという印象を得た。間違いなく企業内容開示の在り方の転換点となるイベントだろう。

Print Friendly, PDF & Email

Tags:

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

超難解計算問題 *