企業会計審議会内部統制部会が再開

2010年10月31日 | By 縄田 直治 | Filed in: 財務報告統制.

2010年10月28日(木)企業会計審議会内部統制部会が「再開」された。会議の意図は、内部統制評価報告制度の改訂にある。
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/naibu/20101028.html

今回の改訂は、企業、経団連、中小企業、会計士協会などの「要望・意見」を踏まえてのものであるため、制度としては「簡素化」に向かおうとしている。追加要望・意見として出されているのは次のような内容である。

1.企業において可能となる評価方法・手続等の簡素化・明確化

  • 全社的な内部統制の評価範囲の明確化・簡素化
  • 業務プロセスに係る内部統制の整備及び運用状況について、評価範囲の更なる絞り込み
  • 業務プロセスにおける評価の簡素化
  • サンプリングの合理化・簡素化
  • IT業務処理統制の運用評価の簡素化
  • 持分法適用会社に係る評価・監査方法の明確化

2.「重要な欠陥」の判断基準等の明確化

  • M&A等により、新たにグループ会社に加わった会社に対する内部統制の評価・監査の方法等の明確化

3.「重要な欠陥」の用語の見直し

論点としては従来言われてきたことばかりなので、漸く整理に向けて動き始めたところは評価できる。特に中小企業向けの施策については、2010年6月18日の閣議決定「新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオ~」を受けていることが「資料2」として提出されていることからも伺える。

これに対する今回の見直しの内容案は次のようになっている。

内部統制報告制度の見直しの主な内容(案)
(1)企業の創意工夫を活かした監査人の対応の確保
○ 経営者が創意工夫した内部統制の評価方法等について、監査人の理解・尊重
○ 中堅・中小上場企業に対する監査人の適切な「指導的機能」の発揮
○ 内部統制監査と財務諸表監査の一層の一体的実施
(2)中堅・中小上場企業向けの簡素な内部統制の取組みの「事例集」の作成
○ 中堅・中小企業向けを中心とした、運用ルールの簡素化・明確化のため、分かりやすい事例集の作成
(3)内部統制の柔軟な運用手法を確立するための見直し
○ 企業において可能となる評価方法・手続等の簡素化・明確化
(例)毎年、各業務プロセスごとに行われている評価手続のローテーション化
○ 「重要な欠陥」の判断基準等の明確化
○ 中堅・中小上場企業に対する簡素化・明確化
(例)必ずしも、組織内における多段階で内部統制の評価を行わないことができること等を明確化
(4)「重要な欠陥」の用語の見直し
○ 「重要な欠陥」の用語は、企業自体に「欠陥」があるとの誤解を招くおそれがあるとの指摘があり、「開示すべき重要な不備」又は「重要な要改善事項」と見直すことを検討

そもそもの大きな問題として根底にあるものが、企業のあるべき内部統制評価や報告についての議論と、内部統制監査とを同系列で論じていることにあるように思えてならない。はじめに確認しておきたいのは、財務諸表監査は国際監査基準で手続が縛られているもので、日本国内で内部統制の監査についてどのような制度設計をしても影響されるものではないということだ。

監査人の立場からすれば、内部統制はあくまでも会計監査の一環として評価されるべきものであって、監査基準の枠内で議論されるべきところ、現行の内部統制監査は会計監査の枠組みにとってつけたような制度設計になってしまったところから、話がややこしくなってきたものだ。それを「一体監査」と一言で表現してしまうと、企業側に対して経営者評価と財務諸表監査における内部統制評価とが同じものであるとの印象を与えてしまう。これが全ての誤解と期待ギャップの原因となっている。

それは、財務諸表監査目的の内部統制評価範囲と、内部統制監査目的のそれとが、包含関係ではなく一部重複関係になっていることに端的に現れている。いわゆる三勘定に含まれない固定資産や、期末時点での内部統制と期中を通じての内部統制といった考え方の違いである。

監査において依拠する(つまり財務数値の検証に対して監査手続の軽減をもたらすほどの一定の信頼が置ける)内部統制のレベルと、経営者が経営管理目的を遂行するための(資産の保全や業務の効率を第一義に置いた)内部統制のレベルとは、自ずから視点も重点も異なるものである。それを、「経営者の評価方法及び評価結果」を監査意見の対象として、それを実施するために監査人と経営者とが協議して範囲の一致がもたらさらるという淡い幻想を描いてしまったために、財務諸表監査目的とは関係しつつも必ずしも繋がらない云わば宙に浮いたものについて適正かどうかの議論をしなければならなくなった。つまり、「財務報告の適正化をもたらすかどうか」ではなく「経営者の評価」が議論の対象になってしまった。これが「制度が必ずしも決算の適正に貢献しない」とか「中小企業への負担が大きすぎる」といった、意図せざる批判を招いていることに着目すべきだ。

ここであえて立法当事者の肩を持つわけではないが、当初の意図はここにはなかったはずだ。一体監査も米国でのダイレクトレポーティングでの過大な負荷を考えて、「経営者評価の監査」をすればコストが軽減されるはずだ(=「一体監査の理念」)という想定のもとに導入されたもので、必ずしも何らかの実証研究に基づいたものではない(過去の運用実績がないので、それは仕方がない)。つまり、経営者の評価結果を監査人が監査に利用するというのは、あくまでも理想系の追求であって、現実社会での内部統制は経営者にとってもコストと効率と効果とのバランスからの妥協の産物であり、また監査人にとっては実証テストと統制評価との間での効率と効果の比較考量の結果なので、制度の設計として「一体監査の理念」が実現できない現実にどう対処するかが全く考慮されていないのだ。

それを「経営者が創意工夫した内部統制の評価方法等について、監査人の理解・尊重」と言い、さらに「内部統制監査と財務諸表監査の一層の一体的実施」と監査人に矛先を向けても、国際監査基準の枠組みで財務諸表監査を縛られている監査人が、日本国内の利害調整の中で決められた弱いルールで動くことはありえない。

今回の見直しで、企業側と監査人側の溝が、さらに深まってしまわないことを切に願う。

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