導入前に知っておくべき IFRSと包括利益の考え方

2010年9月20日 | By 縄田 直治 | Filed in: ブックレビュー, 会計原理.

私の世代以前に会計を勉強したものであれば、会計とは究極には利益概念の説明であるという点には誰も反対しないであろう。しかし、IFRSにおける包括利益の登場によって、そもそも利益という概念すら放棄した会計に戸惑いを感じ続けている人も多い。

私自身もIFRSにおける利益概念とは何かということをいつも意識しながら、IFRSを勉強(?)してきているのだが、肝心の概念フレームワークにすらその説明がない中で、いつの間にかIFRSに距離を置く一人となっていた。ゆえか本書が出た直後の7月に購入したものが猛暑を言い訳に、ここまで読まなかったことを悔やんでもいる。というのも概略自分の考えと著者の考えとはほぼ断片として同じであったが、大きく違っていたのは「会計とは利益概念の説明である」という根本の部分であったことが、本書を読んでよく分かったからだ。

著者の主張は以下のとおりである。

  1. IFRSはその目的を「投資家のための財務情報の提供」に絞っており、その正当性は「世界で統一された唯一の高品質な会計基準」であるところにある。
  2. 従来のような課税所得計算との整合性や配当可能利益計算といった分配計算は目的から捨象している。
  3. その目的を達成するために、日本の企業会計原則のような「実務の中に慣行としてあるものを帰納要約」する作りではなく、目的に沿ったあるべき原則論から落とし込んでいく、まったく新しい作り方をされている。
  4. その1点に目的を絞れば、公正価値概念で評価された資産と負債との差額である純資産の変動を報告することがIFRSの目的となる。
  5. しかし開発途上にあるIFRSは、旧来の複式簿記と取得原価主義による影響を排除しきれていない。
  6. したがって、包括利益は米国などの期間利益概念に引きずられて、(調整の結果として)その他の包括利益という概念を入れざるを得ない状態になっているのが現段階の姿だが、これは大きく変わろうという提案がされている。
  7. とはいえ、従来の会計の体系では、企業年金やリースなど「簿外」になってしまう問題を含め、解決できない問題が多くあるのもまた事実。

著者は、上記のような理解の下に、日本会計基準とIFRSとの差分を追いかけていっても、根本的な概念や目的の違いが分かっていないと意味がないことを警告する。この点、個別財務諸表にIFRSを導入するしないの議論は、上記を見るだけで、ナンセンスであることが分かる。

さて、その提案とは、ディスカションペーパーとして出されている、「財政状態報告書」「包括利益計算書」「キャッシュフロー計算書」を一体化し、事業単位で作成し、利益と資本の連結環だけではなく、項目別の関連を明らかにしようという試みである。その開示インフラとしてXBRLがあると考えている。

著者は、IFRSが「徹底した利用者(※投資家に限る。)思考の論理を組み立て」「市場の評価を財務報告の中に積極的に取り入れ」ようとしているところに意義があり、「これまでの原価主義・複式簿記の組み合わせに対する一種の挑戦」と言っている。

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