民主党の公開会社法案

2009年7月24日 | By 縄田 直治 | Filed in: ガバナンス.

2009年7月23日の日経朝刊に民主党が今度の衆院選挙で政権奪取の暁には公開会社法案を提出するという。ネットで検索したがなぜか記事がない。代わりに東京新聞の記事が見つかった。

こういう大事なことが民主党のホームページで入手できないこと自体が日本の政治家のネット戦略がなっていないことをモロに表わしていて苦笑を禁じえない。あるいは選挙前なのでリークして市場や企業の反応を見つつ「マニフェスト」に入れるかどうか考えようということなのか。

そもそも、マニフェストは選挙前になってあわてて作るものではなく、党の主義主張として常時アップデートして公表していくべきものであって、有権者は最新のマニフェストを選挙公約として受け入れるだけであるべきなのだが。

爺の繰言はさておき、新聞記事で分かる範囲での「公開会社法」について考えてみたい。

まずは基本前提として、日本の企業統治に関する制度は、金融商品取引法と会社法とで構成される。金商法は主として企業の発行する株式や社債などの流通に関わる規制であり直接的にガバナンスを規制しているわけではないが、会計監査制度や企業内容開示制度として間接的には大きな影響を与えている。したがって、株式や社債が上場していない会社(非公開会社)への相対的影響は小さい。しかし会社法は会社の意思決定手続のあり方と資本計算に対する規制であり、主として会社の規模による非対称規制となっているが、上場しているかどうかはあまり影響がない。主務官庁は、前者が金融庁であり後者は法務省である。

こういったことから上場会社については従来から、金商法と会社法(旧証券取引法と旧商法)というダブル規制を受けており、その典型的なところが、決算開示と監査に対する制度がまったく重複して適用されているところである。そもそも「公開会社」という用語自体が、会社法においては株式譲渡制限の有無により判定されるのに対して、一般では上場しているかどうかという区分で使われていることと、大きく異なっている。

公開会社法はこういった上場会社に対する多重規制を一本化し分かりやすくするという形式面での整理と、ガバナンスのあり方について新たな義務を課すと言う実質面での整理を図ろうとする試みであり、内容の善悪は抜きにして、こういった提案は政治家はどんどんやってほしいところである。

さてその内容を見ると、
社外取締役の導入義務化・・・・取締役会のうち三分の一程度を社外役員とし、外部からの経営チェック機能。親会社や重要な取引を行う企業から派遣された者は社外取締役になれないようにする。

社外取締役もあまり形式主義ではよくないだろう。例えば、企業の仕入先や親会社や関連当事者からいくら社外取締役を入れたところで、とても牽制機能が働くとは思えない。しかし、社外・社内の定義をいくら厳密にしたところで、その制度趣旨を満たせるかどうかは任命者の意図にかかっている。そういう意味では、社外取締役が実行あるものになるかどうかは、むしろ株主総会の機能やあり方に関わってくる問題であって、必ずしも会社での職歴の有無とは関係ないのではないか。

監査役会に従業員代表の選任を義務付け・・・・ドイツでは労働組合が企業統治の一翼を担っているが、その制度の一部を拝借したところだろう。これは監査役機能を従業員の立場から強化しようとするものなのか、業務内容に通じた者を監査役会に入れることで監査役監査機能を強化しようとするものなのかはよくわからない。これも社外取締役と同じ議論が言えることだが、もともと日本の監査役は元取締役が多いため、趣旨は前者なのだろうが、であるとすれば、方法論としてはもっと実効あるやり方があるのではないかと考えるが如何。

東京新聞の記事はここまでだが、日経にはさらに、次のような記事もあった。

監査報酬の決定権を監査役に付す・・・・これは監査を受ける立場の執行部門が監査報酬を決定するという俗に「インセンティブのねじれ」を解消するという意図のようだ。公認会計士協会あたりがここ数年盛んに主張してきているところだが、これも本来の意図を通したいのであれば、監査契約を監査人と経営者との間で締結するのではなく、代表監査役と監査人との間で締結し、監査役監査のうち会計に関する部分を「外部委託」するという形を明確にすべきではなかろうか。

個人的に追加すべきと考えるのは、特に会計と監査に関する以下の規制の改廃である。
・上場会社の連結子会社は、上場会社が作成する連結財務諸表に無限定適正意見が付される限りにおいて、連結子会社の法定監査を免除する。
・上場会社は連結財務諸表を開示する限り、単体財務諸表の開示は不要とする。同時に配当規制を連結配当規制とする。
・有価証券報告書や計算書類と言った決算様式にこだわらず、「連結決算の状況」を適時開示する制度を創設し、株主への通知や有価証券報告書での開示は「参照」という形にする。
・上場会社の取締役規制は連結の範囲を基礎とし、連結子会社の取締役規制を外す。

早く、マニフェストを出して欲しい。

(追記8月2日)
民主党のマニフェスト2009を見たが、特に言及はなかった。

Print Friendly, PDF & Email

Tags:

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

超難解計算問題 *