子会社投資の評価と連結決算

2007年6月2日 | By 縄田 直治 | Filed in: 制度会計.

金融商品会計基準では、個別決算における子会社株式の投資は原価法で評価することになっており、実質価額が著しく下落した場合には、減損処理をしなければならないことになっている。一方の連結決算においては子会社投資は持分と相殺されて消えてしまうので、子会社株式の評価問題は、通常は個別財務諸表での論点となる。

会社を買収した場合には、通常はプレミアムである「のれん」が発生するが、個別決算上は減損処理(ないし投資損失引当金の計上)がない限り簿価が据え置かれるのに対して、連結決算上は発生したのれんの規則的償却をしなければならないことになっている。もちろん個別決算で減損が発生すれば、連結決算で計上されているのれん部分は減損しなければならない。

また、超過収益力込みで投資をした場合、超過収益力が発揮されてそれを配当すると何時までたっても内部留保が増えないため、簿価に対する純資産は過少なままとなってしまうが、個別決算で受取る配当金に対応するはずの暖簾部分の償却は個別決算上は認識されない。

このように、子会社投資の会計処理は連結決算と個別決算とでは、投資簿価と実質価額との差額に対する処理の考え方が異なっており、通常は連結決算のほうが個別決算よりも損失を早めに認識することになることから、例えば純粋持株会社の連結決算と個別決算とでは損益がかなり異なって現れることがある。極端なケースでは、純資産の部において連結剰余金が単体剰余金を下回ることもありえる。

一般に現在の制度に従った処理をすると、子会社の業績が悪くなったら連結はその都度損失を認識し決算に反映するのに対し、個別は著しい下落のときだけ認識されるという問題もある。

この問題は単体決算に持分法を適用していないことにある。単体決算で持分法を採用すれば、損失認識のズレの問題は解消する。しかし単体決算で持分法を適用することは、一方では投資の果実は株式を売却したときないしは配当金を受けたときに認識するという考え方があるので、評価益を計上することになるから、結局は持分法は採用し得ない。純粋持株会社などでは、連結業績に基づく配当をする要請があることから、この評価益を認識する仕組がなければ結局は子会社からの配当をしなければ、配当可能利益を計上できない。

子会社の剰余金は単体決算上は評価益だから配当可能利益とならないという理屈であれば、一方で減損処理に至っていないが業績の悪化している子会社の財政状態を反映しないままの配当可能利益はどうして認められるのかという説明はできていない。 会社法では連結配当規制という考え方が導入されているが、連結剰余金を単体剰余金が下回っているときにその差額を配当可能利益から控除するという方法が適用できるようになっているが、なぜかこれは強制ではなく選択適用できるという考え方になっている。

つまり連結決算を行っている会社は、連結決算と個別決算という二つの異なる利益概念を持っていることになり、二枚舌決算となっているのだ。連結財務諸表を提出する会社において、個別財務諸表を開示しなければならない理由は、そもそも奈辺にあるのか、その制度設計の意図を含めて、子会社投資の会計処理のあり方や配当規制のあり方を問いたいところである。

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