財務報告統制に関係する業務の「流れ」を整理・理解するためには、フローチャートが便利なツールといわれ実務では広く用いられています。しかし一言でフローチャートといってもいろいろな種類があり、フローチャートによって何を表したいのかを明確にしておかなければ、本来は業務を理解するために作成したフローチャートが却って混乱を招くことになりかねません。
いくつかの注意点としては、
- 実質面
- 会計仕訳や帳簿記載の基になるイベントと、会計仕訳を起こす手続(通常はシステムへのインプット)を明らかにすること。
- 統制手続を意識して入れること。
- ITによる処理は共通モジュールとして全社で一つとし、人間による処理との相互接続点を明確にすること。
- 反対に業務系のフローではIT部分を「軽く」記載し、ITとの相互接続点を明確にすること。
- 形式面
- 記載要領や用語、行為の意味を社内で統一すること。
- スタートとエンド、ないしは、他のフローとの前後の繋がりを明らかにすること。
- 作成責任者、版、作成日を明らかにすること。
- 統制主体を明らかにし、組織規定との整合性を図ること。
- その他
- 日常業務、決算業務は一緒に記載しないこと。また両者の分界点を明らかにすること。
- フローチャートの記号だけで全てを表そうと思わないこと。
フローチャートは、長方形や菱形の記号を並べ矢印で繋いで表現されますが、実務で用いられているフローチャートを大きく分けると、業務の流れを表す「業務フロー」と情報の流れを表す「データフロー」とがあるようです。
- 業務フロー
「だれが何をする」というところに重点を置いて、その作業の流れを追っていくように記載し、取引のトリガーイベントから取引の完了までが表現される。
- データフロー
データが何処で作られ何処に流れていき、最後は何処に行き着くかが表現される。
財務報告統制の理解という観点からは、それぞれに一長一短がありますが、ここはアイデアプロセッサを用いたデータフローチャートの作成方法を紹介します。アイデアプロセッサとは、頭に浮かんだ考え(アイデアの構成単位=「ノード」という)をランダムに画面に落としていきながら、画面上の要素の関係を繋いだり階層化する(アイデアの関係=「リンク」という)ことによって、あるアイデアを可視化しようとするものです(が、言葉で説明するよりは見て実感するほうが早い)。したがって、組織の業務のようにわからない人にとっては複雑怪奇なものを、一枚の紙で表現するのには便利です。このノードとリンクの関係を、財務報告に係る内部統制との関係で整理すると次のように考えれるでしょう。
ノード:データの宿る場所を表す概念。
- 現物・現実: 事実の属性としてデータが存在すると考える。例えば、「私の体重はXXキロ」「現金がXX円ある」「商品番号XXは、倉庫にXXX個ある」という状況は、事実そのもの。
- 紙の記録: 言うまでもなく、「現金がXX円ある」という事実が紙に記録されることで、データは紙の上に宿ることになる。
- ITの記録: 紙の記録と同じく、ITによる記録メディア(ハードディスクやDVDなど)
にも、データは宿る。 - 人間の心証: 事実の認識や判断といったものは、人間の頭の中にデータの形で存在する。
「現金がXX円ある」という認識と「帳簿には、現金がXXあると記載されている」という認識があって、「帳簿データは正確である(事実と記録が一致している)」という判断がある。つまり事実と記録との間には必ず人間による認識が媒介し、事実と記録とが一致しているという判断によって、記録が適切であるという心証を得ることになる。
ノードとは、このようなデータが概念的に存在している場所(ストック)を表すもので、フローチャート上では、長方形や菱形などの記号を用いて種類別に表現されています。人間(記憶、判断)、IT、紙(帳簿・伝票)、現物(現金、在庫、契約書など証拠書類)の属性があると考えられます。
リンク:データの流れ(転送される、加工される、利用される、照合される)
ノードに対してリンクとは、データがノードからノードへと移動する過程でどのように処理されるかという概念です。例えば、契約書のデータを見て人間が契約情報をITシステムに入力し、そのデータが契約管理システムサーバに蓄積されるという流れを、[ノード(種類)]と=リンク=というかたちで表現すると、次のようになるでしょう。
[契約書(紙)]=契約データを認識する=[契約に関する情報(人間の頭)]=契約データを入力する=[システム端末(IT)]=契約データを蓄積する=[契約管理システムサーバ(IT)]
【例】(見えにくいときは保存してMSペイントなどで開いてください)
このフローチャートは、 “http://homepage3.nifty.com/kondoumh/index.html”>Kondoh Masahiro
(MH)さん制作のアイデアプロセッサ、iEdit ver. 1.70を用いて作りました。それぞれの図形(シェイプ)がノード、ノード間を繋ぐ線がリンクで、矢印はITによる処理を、実線は人間による処理を表現しています。データの流れを旨く捉えていますね。
各人物が何をするか(つまりコントロール手続)については、ノードの解説として画面下部に記載されることもできます。
このフローチャートから次のようなことが読み取れます。
- 人間は、必ず他のノードの間にいてあたかもリンクの役割を果たしている(営業部長はLAN端末と一本の線で繋がっていますが、これはLAN端末の「契約データを認識する」リンクと、「契約承認データを入力する」リンクとを重ねて「承認する」という一つのリンクで省略して表現しているからです。
- 契約事務担当は、二つのリンクで繋がっていますが、ノードからデータが何処にも流れていっていません。つまり、契約書と契約プルーフリストが一致していることを確認してはいるものの、その「記録」がノードに落ちていないことが分かります(=統制手続の記録の不備)。
このようにノードとリンクで表現すれば、財務報告データがどのような関連性を持っているかが一目瞭然ですから、ノードやリンクの何処でエラーや不正が発生しうるか、あるいはその影響はどこに及ぶかということが大変分かりやすく捉えることができます。
もともと財務報告とは、会社に発生した事実を捉えて財務数字に置き換えて報告する技術ですから、その過程は各ノード間をリンクがどのように繋げ最終的に「有価証券報告書」というノードにデータが流れていく様を表現できれば、フローチャートの目的は達成できるはずです。
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