監査基準において虚偽表示とは、会計基準に従った正しい財務諸表の表示と実際の表示との差異を表します。すなわち、監査意見形成時の会社の財務諸表を\(Y\)、会計基準に従った正しい財務諸表を\(Y^*\)とすれば、虚偽表示\(m\)は、
$$m = Y – Y^*$$
と表すことができます。
一方、監査意見形成時には監査人は虚偽表示の存在を監査差異\(d\)として認識していますが、その基礎となっている財務諸表はあくまでも監査人が正しいと信じている財務諸表\(\hat{Y}\)であるため、
$$d = Y – \hat{Y}$$
この2つの式から、
$$m-d = \hat{Y} – Y^*$$
を導けます。この式の左辺は、真の虚偽表示から(既知の)監査差異を除いたものなので、未知の監査差異と考えることができます。そして右辺は、監査人の正しいと考える財務諸表と真に正しい財務諸表の差分を表していることから、監査人が財務諸表に対して抱くバイアス\(b\)と解せるでしょう。
$$m-d = b$$
監査意見形成時に適正意見を出せるための必要条件として、推定を含む虚偽表示の金額が重要性の閾値\(T\)を十分に下回っていることが挙げられます。すなわち、
$$m = b + d \ll {T}$$
適正意見の場合、監査差異\(d\)は必要な修正をした残余の差異つまりそもそも重要性の低い未修正差異であるため、上の式は、
$$b \lt {m} \ll {T} $$
として捉えることができます。つまり、監査人は虚偽表示を既知の監査差異として捉えるだけではなく、自らのバイアスが(未知の)虚偽表示となっていないことを確かめなければならないことになります。これが十分な証拠を得たということの説明となります。