freeeのクレジットカード処理

2021年10月10日 | By 縄田 直治 | Filed in: 会計とIT.

クラウド会計サービスを提供しているフリーには、口座と連繋して口座情報を自動で取り込み会計処理をする機能があります。
カード利用明細などを眺めながら入力するステップが省略できるので、入力漏れや入力誤りという点から心が解放されるため、ストレスを低減してくれます。

連携されるデータに含まれる情報から、予めテンプレートに登録していた処理を起こすこともできます。
個人事業者には便利な機能と言えるでしょう。

そういう中で一つ、私の使い方の中ではクレジットカードの連携で困った問題がありました。

二重入力

フリーは、収支取引、口座振替、未決済取引の消込という3種類の体系があります。
口座の情報から収入・支出を推測し、取引を登録するという設計になっています。
先に結論を言えば、借方・貸方双方で口座情報が動く処理は、とても面倒です。

例えば、クレジットカードの引き落としを銀行口座から起こすと、

(クレジット連携)
(借方)カード口座 XX T (貸方)銀行口座 XX
という二重仕訳が発生します。

一方で、銀行口座も連繋していると
(借方)カード口座 XX T (貸方)銀行口座 XX
という仕訳がもう一つ発生します。

別の例として、クレジットカードから交通系電子マネーに振替すると、
(クレジット連携)
(借方)電子マネー (貸方)カード口座
(カード連携)
(借方)電子マネー (貸方)カード口座
という二重仕訳ができます。

フリーではこの処理の内、どちらかを「無視」という処理をします。言葉遣いが粗雑なのは別として、勘定連繋した処理を網羅しないのは、記録としての完全性がありません。無論「無視」という処理の記録があると言われればそれまでですが、口座管理を人によって分けていた場合、牽制機能が果たせません。

実体勘定は残高管理と結びつく

簿記には元来、「実体勘定」と「名目勘定」という考え方があります。

実体勘定とは文字通り、勘定の対象としている財産が存在しその動きに合わせて処理する勘定です。つまり、実体との一致を確保しておくべき勘定です。これに対して、名目勘定とは実体勘定の動く原因となっている取引理由(名目)を記録する勘定で、主として損益勘定です。

口座振替は実体勘定同士の処理なので、上記の場合、カード口座(受け手)と銀行口座(出し手)の双方で事実としての口座の動きを会計記録が反映していなければなりませんが、2つの処理をどちらかが無視するというのでは、そもそも複式簿記を使っている意味がありません。

解決策としては、双方の実体勘定の処理が同期していることを確かめるための通過勘定を用意します。
上記の例では、

(クレジット連携)
(借方)カード口座 XX T (貸方)カード決済勘定 XX
という仕訳が発生します。

一方で、銀行口座も連繋していると
(借方)カード決済勘定 XX T (貸方)銀行口座 XX

という処理をすると、銀行側とカード側の連携日時が数日ずれても、カード決済勘定を見ることでどちらの処理が遅れているかということや同期が完了しているかどうかが分かります。

クレジットカードについてはもう一つの問題があります。

カードを利用すると、カード会社からカードの利用情報が数日遅れて連携されます。
例えば、書店で書籍を購入すると、

(借方)新聞図書費 XX T (貸方)カード口座 XX

という仕訳が生成されます。勘定科目の動きに連繋して取引先も登録されるので、取引先別にカード未決済残高が分かるようになっていて、とても便利です。

ところがカード債務が決済されるときには、その月の決済金額を一纏めにして

(借方)カード口座 XX (貸方)銀行口座 XX

という仕訳が生成されるので、カード口座残高の数字は落ちても個別の支払先の債務残高は消し込まれません。つまり、カード口座を見ると、取引先別の債務と支払った金額のうち消し込みに当てられてないない金額が両建てで残っていることになります。

実体勘定は実体としての債務残高と連繋していなければ簿記の機能を果たしません。つまりカード口座の残高が個別の債務の内訳を確かめられなければ、たんなるどんぶり勘定でしかないということです。

正しくは取引時の処理は、

(借方)新聞図書費ーYY書店 XX T (貸方)カード口座ーYY書店 XX

決済時には、

(借方)カード口座ーYY書店 XX T (貸方)カード決済勘定 XX
(借方)カード決済勘定 XXX T (貸方)銀行口座 XXX

となるべきでしょう。

この問題はどこから出てくるのでしょうか。簿記を勉強している人なら分かりますが、勘定科目と補助科目の関係が混在している点です。つまり、カード口座は勘定科目としての未払金の内訳であるとともに、補助簿としてのYY書店の債務残高を管理すべきところですが、フリーの処理は、当初からカード会社に対する債務として認識してしまい、YY書店の債務について放置している点にあります。

この問題の回避策をいろいろ考えてみました。

個別に入力して債務残高管理をする方法

簡単なのは、取引時に未決済の取引として手入力することです。

取引時
(借方)新聞図書費ーYY書店 XX T (貸方)未払金ーYY書店 XX
カード情報連携時
(借方)未払金ーYY書店 XX T (貸方)カード口座 XX
銀行決済時
(借方)カード口座 XXX (貸方)銀行口座 XXX

この方法は新たに別の問題を生じます。

カード連携は比較的取引の数日後にされることが多いのですが、翌月の決済の締めと必ずしも合致していません。カード口座の補助口座(取引先)がないため、翌月の決済日に決済されるものと翌々月以降に決済されるものが混在し、未払金の管理はできても、カード口座の残高がどの取引が基礎になっているかがわからないのです。

最近のカード情報は未決済残高も含めてネットでは調べられるようになっているので、照合はできなくはありませんが、やはり個々の取引を「漏れなく」一旦は手入力しなければならない点が煩雑で本来のフリーの使い方とは違っています。

個別に振替処理を入力する方法

そこで次の方法を考えました。

利用時に利用情報として支払先情報を登録します。

(借方)新聞図書費ーYY書店 (貸方)カード口座ーYY書店 ※自動連携

翌月の支払いが確定した際に
(貸方)カード口座ーYY書店 (貸方)カード決済勘定 ※手入力

実際の支払い決済時に
(借方)カード決済勘定 (貸方)銀行口座 ※自動連携+カード決済勘定のリセット確認

しかしこの方法は手入力がかなり面倒ですし、結果的に自動処理のメリットが失われます。
残念ながらエクセル一括入力で振替処理をしても、取引先情報は動かせません。

連携データを使って取引を一括入力し、同時に消し込む方法

さらに次の工夫をしてみました。

カード利用時に連繋してくるデータを、そのまま保留しておきます。

次の決済日に支払うカード決済情報が確定したものを表計算で読み込る機能を使って取引登録します。

(借方)新聞図書費ーYY書店 (貸方)未払金ーYY書店
・・・その他の一連の取引

その後、保留したデータと上記で読み込ませたデータをフリーの未決済取引の消し込み機能でぶつけます。

(借方)未払金ーYY書店 (貸方)カード口座

銀行から振込データが来ます
(借方)カード口座 (貸方)銀行口座

この方法は、未処理データが保留データとして残り、かつカード口座の残高を翌月決済分にできます。
欠点は、銀行引き落としが遅れてしまったデータの当月の費用としての計上漏れが発生することです。

カード利用情報が連携されたときに取り込めばいいではないかというご意見はごもっともですが、それをするとカード口座が混合になるという当初の問題に遡ります。

何が問題か

フリーの仕様は、会計処理として誤っているわけではありません。しかしスモールビジネスを事務処理から解放するという趣旨からは外れています。端的にはその仕様として、カード情報が連携されたときに持っているデータを決済日とする「みなし」の問題です。なぜか実際の銀行引き落とし日でもなく、また決済日情報を手で修正することもできません。本来なら、カード会社との契約に基づいて、締め日と支払日は決まっているので、それを反映したデータにすべきです。分割払いを部分的に使っている人などは、どのようにして未決済残高を管理されているのでしょうか。

この問題の興味深いのはシステムを作る人と使う人ととの間で使い方の認識の違いがあることです。さらには、使う人の中でも日々の処理を楽にしたいということがメインの人と、事後チェックを楽にしたいということを主題とする人との違いもあります。会計は処理するだけではなく確かめるという行為が伴って正しい決算報告が生まれます。確かめやすいデータとは経営管理に役立つデータでもあります。

※注

本稿では、クレジットカードの利用による債務が、カード加盟店に対するものなのかカード会社に対するものなのかという議論は横においています。取引の履歴と現在の状態を追跡できるようにすることが会計処理の基本であるという前提に立っています。

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