平成27年公認会計士試験の合格発表

2015年11月18日 | By 縄田 直治 | Filed in: 人材育成, 監査と監査人.

13日に今年の会計士試験の合格者が発表されました。
http://www.fsa.go.jp/cpaaob/kouninkaikeishi-shiken/ronbungoukaku_27.html

合格者の皆様、おめでとう。

ここのところの受験者数の低迷傾向を反映してか、合格率は10.3%とかなり高くなっていますが、合格者数はかろうじて千人を超える1051人。相変わらず難関といわれる試験であることに変わりはありません。

この合格発表では単なる個人別合否だけではなく、受験者の得点分布が公表されています。

最高得点者は68ポイント(1名)です。
60ポイント以上得点者は86名で受験者全体の2.79%にしかなりません。
総合得点では合格点数(58ポイント得点している)にもかかわらず、一部の科目で40ポイント以下の得点であったために不合格とされた人がいます。何か大事なところを落としてしまったのでしょうか。
52ポイントが合格ラインで1051人の合格者ですが、23名の方が一部科目で不合格になっています。
さらにもう一つ読み取れるのは、ポイント別に見ても、52ポイントが206名と最頻値でもあるということです。

会計士試験は色々な議論をされながら、内部統制監査制度ができた時に今の枠組みが出来上がりました。当初は、人気の試験となり受験者も増えましたが、反動で大量合格者を排出し未就職者問題が出て試験に受かっても監査法人に入れないという不評を買い、以降、受験者が減少しています。また不正会計事件も減る様子はなく、会計監査に対する見方も厳しくなる一方で人材の高度化が遅れています。一方の監査法人は業務量の増加(理由はさておき)に伴い若手会計士の増員を図ろうとしているので、雇用ミスマッチが発生しています。

自分自身が業界内部にいて、この状況は監査制度の将来を考えるととても憂慮すべき事態だと感じています。特に「会計士の数」の議論はとても大切なことですがそれは入り口の議論に過ぎません。未来の話よりも今日明日の仕事をどうこなすかという点においては、数の議論はしやすいですが、それすなわち問題の解決にはつながりません。

昨今感じていることは、監査というものの捉え方が太宗として「民間企業の財務諸表監査」にとどまっており、もちろんそうでない人もいらっしゃるわけですが、業務監査やシステム監査などの特定領域監査を含めた企業を取り巻く監査制度という視点が抜けています。さらには企業に限らず、お金の受託責任のある団体の会計という意味では、公的セクタ(国や自治体)の監査制度の拡充の必要性も言われていますが、企業会計を取り巻く世界とは全く別の体系であり、人口減少問題に隠れてあまり議論が盛り上がっているようには見えません。もっと言えば、公認会計士は監査の領域にとどまらず財務に強い知見を持つ者として経営への助言などの期待が(規制当局の意向とは逆に)増加しています。また、監査の内包するリスクアプローチという考え方は、経営にも通じる要素があり、企業、自治体や監督官庁等に対して監査・財務知見のある人材を輩出することも強く期待されています。

すなわち、「監査」自体が制度ではなく社会の一側面として複合的綜合的にならざるを得ない世の中の実情に対して、公認会計士制度が想定している会計士の役割(公認会計士法第2条)はとても狭く、この規制の範囲でさらに規制を弄繰り回して監査(を通じて世の中)を改善しようとしているところに無理が生じています。人(資格)や業務(免許)の規制としての公認会計士制度や、年に1回決算をまとめて開示するという考え方は、人間の能力を超えたところでリアルタイムにデータが飛び交う世の中では、既に時代に不適合になっているのです。

「不正会計はどうすればなくなるか」という議論は大切ですが、監査制度だけの議論をしても、交通事故死亡者が年間1万人まで減ってもそれ以下には下げ止まりを示しているように、方法論としての限界についてもきちんとした議論が必要です。狭い議論をしてどう会計士を規制しても、その議論の行き着く先は現場のチェックリストの項目拡充に陥ることは目に見ています。何故なら、規制は守らねばならないし、守っていることを示す必要があり、それを確かめる立場の人も同じことを考えるからです。制度の理念は蚊帳の外に置かれ、自己弁護の連鎖を生むだけです。

神の代弁者とされるプロフェショナルがその理念を実現することを目指すよりも優先すべき課題があるとすれば、今の人手不足が規制を守るための人手不足であるとすれば、会計士試験を受験する人にとって魅力がなくなるのは当然のことでしょう。合格者の方に年寄りの説教として申し上げたい事は、今の社会と将来を見据えて何を変えればよいかということを常に考えるようになっていただきたいということ。規制や権威の受身に立つのではなく、よりよい社会制度作りに能動的に関わってほしい。それにはまず自己研鑽を続け、個人として尊敬される人になること、そしてそれを目指して努力する周囲の人も尊敬し、ともに自分の道を切り拓く人になっていただきたいということです。

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