CAATによる分析的手続

2015年2月28日 | By 縄田 直治 | Filed in: 監査と監査人.

監査は一般には、概括的な分析から入っていき取っ掛かりを掴んで重要ポイントを詳細にテストしていくという流れをとる。

昨今は、いかに「全体観」を持った手続を実施したかが問われるため、如何に効果的な手続を選択して全体としてのリスクを軽減していくかという基本設計力が要求される。他方、そういう面倒なことは考えずに、統計的サンプリングに依ってひたすら詳細テストを広げるという考え方もあるが、これはそもそも「リスクを評価する」ということを端から放棄しているので、監査人としての素養が問われることになろう。したがって、分析的手続により監査対象をある考え方でカテゴリ化し、リスクの重み付けをして、リスクに応じた手続を選択することで、手続の効果を高めることが有効な方法になる。

分析的手続は、ひと頃は会社の用いている管理会計資料を用いることが主流であったし、今でも有力な方法の一つであることに変わりはない。会社資料による方法の問題は、会社の用意している資料以上の情報が得られないために、いざ知りたい情報がとれないことがあったり、そもそもその情報の信頼性が疑問視された際に、取っ掛かりを失ってしまうという弱点を持っている。

そこで頼りになるのが分析対象データを入手して監査人自らがCAATで分析を導く方法である。

この方法は、EUCが普及した現在では技術的には難しくはない(無論、データの容量などの制約は考慮せねばならない)が、そのような「恵まれた」環境であれば、問題は技術ではなく分析に必要な監査人の技能や知見が問われることになることに気がつくべきだろう。

ここで技能とはCAATツール(これは目的が達せられれば何でもよい)を用いて、分析をかけるときにツールが使える能力である。いわば、ツールとツールを使いこなす監査人の能力との関係が、「鬼に金棒」なのか「猫に小判」なのかということだ。

さらに問われるのは、ツールを如何に使いこなせても「分析」というそもそもの監査に必要なスキルが備わっていなければ、単なるデータ処理遊びに終わってしまう。これはワープロが打てることと作文が書けることの違いを考えれば分かる。

つまり、監査人には分析という目的、手段としての技術、さらには両者を繋ぐ技能との三位一体のバランスが求められることになる。

これは、そろばん、電卓の世界ではありえなかった新しい考え方でもあるが、意外と気がついていない人が多いというのが印象だ。先の例えで言えば、いまだに手書きで作文してタイピストにワープロ打ちを依頼する考え方から抜け切れていない。「人材がいない」という言葉を耳にした時に改めてその意味を問うてみると、やはり技術のレベルに人がついていけてないことが問題視されていることが多い。

技術のハードルが下がれば下がるほど、それを使いこなせるかどうかという人間の能力が問われるというのは、皮肉でもある。
本来、監査人教育の重要なテーマのはずなのだが、なかなか理解が得られないことには忸怩たる思いがある。
尤も、「忙しい」という便利な言葉で勉強しないことを正当化する人を相手に説教するつもりもないが、逆に今の監査現場や監査業務の置かれている状況を少しでも改善しようと意図されている方とは、ぜひとも思いを共有したい事柄の一つである。

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