実証分析入門

2015年1月25日 | By 縄田 直治 | Filed in: 統計.

監査における実証手続の本でもなければ、分析的手続の本でもない。法律学者が社会科学の視点で法の世界で統計が実際に使われている事例を統計学の知見と関連付けて説明しており、相当高度な内容である。「法学セミナー」(通称、法セミ)に連載されたというから、法律を勉強している人も六法全書と判例とに格闘するだけではなく、こういった領域の知見を求められるようになってきているということなのだろう。したがって監査においても参考に出来る部分は多いはずだ。こういう本が平積みされているのはさすが大手町紀伊國屋である。

データから「因果関係」を読み解く作法という副題が付いている。

本書は、数式はほとんど使われておらず、統計理論の解説もないが、統計手法の解説と使うにあたっての留意点またその手法が実際に使われた場面などを紹介され、グラフに依る解説を多用している。時折、学生に媚びったような「ちゃらい」表現が散見されるが故に、まともに読む人には帰ってわかりづらくなっている部分がある点を覗いては、読み手の実力が試される内容だ。

全27章のうち第8章までは通常の統計学の本で扱われているいわゆる仮説検定についてである。ここまでをまともに読んで理解するだけでも骨が折れるが、基本がしっかり分かる内容だ。それ以降は、社会科学における統計に関する個別事例が扱われて、ベイジアン統計も入っている。統計理論的な部分は正直言えば理解できないが、取り上げられている内容は、例えばコーポレートガバナンスの強化策として女性取締役を増やした場合に業績がどのように影響しているか、とか、失業者と犯罪件数の関係の分析における人口バイアスの捉え方など、社会政策としての法律と実際の効果という観点から、データによって因果関係(相関関係ではなく)をいかにして見出すかということを「実証」という言葉で表現している。

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