監査事務所検査結果事例集(平成26年7月)

2014年8月8日 | By 縄田 直治 | Filed in: 監査手続.

夏休みを使って公認会計士監査審査会(CPAAOB)監査事務所検査結果事例集(平成26年7月)を読んでみた。

こういうものを手にするのでは少しも「休み」になっていない点は自虐的諧謔として自嘲に付すしかないが、日々の業務に追われる平時では中々落ち着いて読む機会もないので、夏休みはよい機会なのだ。毎年この時期に会計士協会の「監査提言集」と同じタイミングで出されているのも、夏休みに読みなさいということなのか、単なる行政手続き上の都合なのかは知る由もないが。

検査結果事例集は、回数を経るにつれて内容が充実してきている印象があり検査官のノウハウが蓄積され着眼点も鋭さを増しているのだろう。会計士協会もこういう文献学習をCPE単位に含めるなどしたらどうかと思うのだが、そういう声はないのだろうか。

あくまで個人的感想に過ぎないが、今回の事例集の特徴を取り上げる。

評価できる取組
全体として指摘事項にとどまらず、逆に「評価できる取組」を示すことで、業界の模範を示しながら各事務所の「着手遅れ」を意識させるようにしてある。競争社会においては、できていないことをあれこれ言われるよりも、他者がより優れていると言われることのほうが心理的焦り効果は大きい。そういう情報があることによって、世間からも比較して見られることを明らかに意識させるようにしている。

監査事務所に対する期待(p1)

凡そ行政機関が監督する立場での検査は「できてあたりまえ」であって「期待」として見解を表明することなどありえないと考えていたが、いきなりこのタイトルであった。

品質管理の課題について個々の監査人の手続の不備もさることながら、「品質管理のシステムの不備につながる根本的な原因を特定した上で、その改善に組織的に対処することが求められる」として、経営に関わる社員全員の問題として捉えた対応の必要性を強調していることがあげられよう。

また、従来は監査調書の作成が適切でない場合は、「文書化の不備」という指摘をされていたが、しばらくしては、調書がない場合は手続を実施していないとみなすという考え方に変わり、今回は、「適切な監査調書が作成されていない背景には、当該監査チームの知識、経験または能力の問題にとどまらない、監査事務所全体における審査、定期的な検証、教育・訓練等に係る問題が通常潜んでいることに留意する必要がある」と個の責任よりも全体責任を強調しているところが特筆される。

こういうことが「要求」ではなく「期待」として表明されるあたり、まだまだ監査事務所間の取組の較差があるという示唆なのだろうか。

各社員の職責に対する自覚、社員間の相互牽制(p9)

「経験年数の短い公認会計士・試験合格者の割合が経験年数の長い公認会計士に比して高くなっている状況」が示され、内部統制監査制度導入以降の歪みきった人員構成についての影響への共通認識が検査の前提になっている。この対応を、経営者レベルではなく「各社員」に求めているところが、一般企業の管理組織機構やガバナンスを前提とした銀行などの検査とはまったく違うアプローチとなっている。
また監査実施者の能力や経験を踏まえた個別の対応についても言及が見られ、今後、職業専門家としての会計士というだけではなく、経験やスキル、専門分野などを客観的に分かるようにしていく必要性が示唆されている。

形式的な対応

指摘事項に対する「形式的な対応」がなされ、根本原因の解決や趣旨を理解した業務の改善がなされていないという指摘が随所に見られる。

個別監査業務編

「見積」と「不正」における「実質的な検討」が中心テーマである。

経験やスキルが不足している若手に対する現場での調書レビュを通じた指導監督が強調されるのは従来からもあったが、個別業務では「XXXXの手続がなされているかどうか」という形式的な観点はもはやなく、「リスクをどのように認識しているか」また「リスクに対してどこまで踏み込んだ検討を加えているか」という観点からの指摘が随所に見られる。

また指摘事項の書きぶりも、従来は、「XXXXができていない」という事実のみを書いたものが多く、実務現場としてもその趣旨が理解できず困惑することもあったが、今回は、検査の観点を「着眼点」として示した上で、「XXXXのリスクを認識しているにもかかわらず、それに対応する手続を行っていない」というように、監査人側が不備を指摘されるべき状況を明らかにした指摘のしかたがされるなどの工夫が見られる。いわゆる「根っこにある問題」を根本的原因として指摘しようとする姿勢が伺える。

結果的に、「質問のみによる結論の導出」「入手資料の信頼性の検討」「XXXXの状況があるにもかかわらず、XXXXのみの実施にとどまっている」(踏み込みが足らない)という指摘が多い。

内部統制監査

世間からの指摘があるのかもしれないが、さり気なく「監査人の指導機能」を強調しているところが注目される。

「被監査会社の規模や組織構造等の特徴を踏まえた効率的な内部統制の構築に関して指導機能を発揮することが求められている。」

またさらに、徒に監査手続を増やしたり評価をすれば良いということではなく監査自体にも効率性が求められることにも言及された。

「効果的・効率的な監査の観点から、監査上の重要性を勘案しつつ、経営者による内部統制の整備及び運用状況並びに評価の状況を十分理解し、内部統制監査と財務諸表監査を一体的に実施することが求められている。」

検査観点がかなり実質的な内容に踏み込んでいこうという意欲を感じさせるようになっており、ある意味では形式的な対応にいくらエネルギーを費やしても「そこにどのような効果と効率が得られるのか」という実務的観点や、「リスクをどう捉えているか」という本質的観点が抜けていると、徒労に終わる可能性もあるということだ。

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