証拠力

2014年5月29日 | By 縄田 直治 | Filed in: 監査手続.

「一般に契約書の証拠力はどの程度と考えればよいでしょうか」

という質問をされた。質問者も自分の聞きたいことが漠としているという認識があるようで恐縮していたが、こういう質問をされると、普段何気なく頭のなかで処理していることを言葉に置き換える必要があるので、頭の体操になってとてもよい。

契約書の証拠力は、契約の当事者の属性や契約の中身によっても異なってくるので、「十分な証拠」であるかどうかに迷いが出ることは、監査を真面目に考えている人には自然な疑問だろう。まして証拠力について正当な注意を払って評価しなければならないのは基本中の基本である。取引相手が関連当事者であれば、取引の合理性などにさらなる注意が必要になるなどの具体的な例もある。

少し観点を変えてみると、まったく同じ契約書であっても、その契約を何の証拠として取り上げようとしているかによって、求める証拠力が異なってくるということに気がつく。つまり、求める監査証拠力とは証拠自体が持つ訴求力に加えて、監査対象について監査人の求める心証によって異なってくるので、ある客体をもって「一般的な証拠力」を決めることは難しかろう。

そしてその証拠力を判断すること自体は専門家の能力でもあり責任でもある。換言すれば、その証拠によって意見が表明可能と判断出来るだけの心証が形成できれば証拠力が強いといえるし、逆にもう少し裏付けを取りたいと考えれば弱い証拠力ということになる。つまり監査人は証拠の評価をしなければならないとされるのは、自己の得た心証についての自信と裏腹の関係で考えるということだ。

冒頭の質問に立ち返れば、「一般に」に対する答えは存在しないし「程度」を決めるのは手続の目指すところから相対的に決めるものであって客観的な指標はない、ということになろう。質問者はまさにそれを問うことが監査の本質に近づくことであることを感じ取ってくれた。真面目な監査人ほど「十分な証拠」を自ら真剣に考え、他の判断に根拠を求めないはずである。

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