内部統制制度改革案

2012年9月2日 | By 縄田 直治 | Filed in: ガバナンス, 財務報告統制.

思えば、鉄道会社の有価証券報告書における株主の状況の虚偽記載がきっかけとなり、アメリカの企業改革法に遅れるなという時代背景の中で、なし崩し的に始まった内部統制評価報告制度。

世間の批判は色々あるも、次のように制度の枠組みを変えてみてはどうだろうか。

1.経営者による評価をやめて、監査役による評価とする

2.監査人による意見表明はやめて、監査役による意見表明とする

3.会計監査人と監査役とは協力関係を築き、監査役による内部統制の評価結果を会計監査人は利用しながら会計監査を進め、必要に応じて追加的に内部統制評価を行い、内部統制の保証はしないが会計監査意見を表明する。監査役は会計監査人の監査の結果について評価する。

1はいうまでもなく、独立性への疑義に対する解決策だ。経営者がいくら内部統制の評価をしても、所詮、経営者に近いレベルになるほど統制の不備には対応力がない。そこは、経営者とは距離を置く監査役の管轄下とするほうが、理に適うのではないか。さらには、昨今、監査役の権能を強化する議論がよく出てくるが、監査役に事務局以上のスタッフをつけている会社はほとんど聞いたことがない。内部統制の評価に限らず、業務監査の枠組みも含めて評価しなければならない監査役に、内部統制評価部門を丸ごと渡してしまえばどうだろうか。

2については賛否があろう。しかし、監査役は内部統制システムを評価しなければならない立場である。会社法の世界においては、事実上、内部統制に対する意見表明をしていることになる。この制度をより実効あるものにするために、監査役が意見表明すればよい。さらには会計監査人による意見表明をやめる理由は、会計監査人は統制のレベルによらず財務諸表に対する監査意見を表明しなければならず、リスクの高い事象については統制に依拠せずに直接的に証拠を集めることになるので、財務報告の信頼性という観点からいえば、会計監査人による経営者評価への意見表明は内部統制を改善させるための原動力にはなっていないからだ。

3は、1と2の帰結として言えることだ。いわば、会計監査人は監査役の統制評価に乗っかり、監査役は会計監査人の監査結果に乗っかることになる。監査役は会計監査人に内部統制の追加評価をされることにより監査役監査の不足を意味するので、十分な統制評価を行えるよう会計監査人と監査役との協議が進むことになる。一方、監査人は経営者により近い監査役が経営レベルも含めて統制評価を行うことで不正リスクの軽減にも繋がることで監査資源をより有効に使えるようになる。さらには、統制が有効に働いているにもかかわらず虚偽表示を見逃した場合には、より会計監査人の責任範囲が明確になるので、ハイリスク領域により重点をおくリスクアプローチが可能となる。ここに、監査役と会計監査人との相互牽制作用が働くことになるのだ。

監査役制度は日本独自といわれ、その機能が批判されることがあるが、そもそも制度の趣旨は経営の監視であり悪いことではない。しかしその実効を担保する制度設計がなされておらず、個人の監査役がスタッフもないところで監査を行っているのが現状だ。したがって、いまの内部統制評価報告制度を上記のように変更することで、現行の監査役監査の枠組みを大きく外すことなく経営者による統制の整備運用をより客観的独立な立場から評価でき、会計監査の効果を上げるという、一石二鳥の制度改革なのだが。

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