会計事象すなわち会計が捉えるべき企業価値の変動には経営者の主観的判断の関与度合に応じて3つの観点があると考えられる。
1.経営者が意図した行動により生ずる取引による価値変動
2.経営者の環境認識によってもたらされる価値変動
3.経営者が測定上仮定した計算条件の変更
もしかすると2と3は同じことかもしれないが、2の含意は「何もしないでじっとしていても分かる企業価値の変動を認識する」ということに対して、3の含意は「価値変動そのものがよく分からないので価値変動要素を仮定した上で価値変動をみなし認識する」という意図である。
2の典型は市場価額の変動であり、3は減価償却や減損処理である。
これを財務報告リスクに絡めて考察すると以下のようになろう。
1.経営者の意図せざるところでの企業行動の存在(網羅性の危惧)と、行動が事実に基づかない(実在性の危惧)か、あるいは事実はあっても、あやふやに記録されること(正確性の危惧)
2.企業価値に影響する環境変化があらかじめ想定されていること(全社統制=リスク認識)と、想定された環境変化が制度趣旨を満たすよう適切に捉えられる仕組が用意されていること(経営リスク=統制環境)、そして会計に反映され報告されること(処理リスク=モニタリング、情報伝達)
3.経営者の置く仮定が利害関係者の調整上誤っている(配分の危惧)、仮定に基づく計算方法が歪んでいる(評価の危惧)
4.そして経営者判断が曖昧になるような開示の方法がされる(開示の危惧)
したがってアサーションは、順を追って次の4つのレベルで捉えることになる。
上位レベルを検討する際には既に下位レベルの要点はクリアされていなければならない。
(1)まず、事実を捉える際には「網羅的」に捉える必要がある。
(2)それを前提に、捉えた全ての事象が「実在し」かつ「正確か」が問題になる。
⇒個々に実在し正確であっても、漏れがあることは虚偽に至る。
(3)さらに、事実を解釈する際に「評価」や「配分」の合理性が問題になる。
⇒解釈や判断にあたっては、事実が網羅的に把握され、実在している事実を正確に捉えていることが前提である。
(4)最後に、報告される全ての重要な事象は分かりやすく「表現」される必要がある。
つまりアサーションの検証は、網羅性⇒実在性⇒正確性⇒評価・配分の合理性⇒表示という順序を経ることになるため、網羅性は統制評価の前提条件である。そもそも価値に影響する重要事象を認識できなければ会計処理のしようもないので、これは頷けるだろう。
経営者が「私は知らなかった」と言えない所以かもしれない。
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