「事務ミス」をナメるな!

2011年4月9日 | By 縄田 直治 | Filed in: ブックレビュー.

内部統制を考える上で、不正を除けば会計処理の誤謬はほぼ事務ミスに拠ることが多いので、これによる誤謬の発生を如何に未然に防ぐかということが大きな課題となる。内部統制監査が始まってから、監査において一部の例外が検出されることがあっても会社もそれなりに気をつけているから、統制の不備が指摘されることはほとんどないといってよい。でも実際はエラーが発生して監査差異に至ることはないわけではない。重要な欠陥(開示すべき重要な不備)に至るまでもないので、表には出ないものの、監査人としてはなんらか会社に対して警告を発する必要があるのだが、何をいっていいかわからず「内部統制の徹底」とか「二重チェックの励行」とか言っているようで何も言っていないコメントでごまかしていることが多い。

つまり事務処理ミスをなくすことは難しいのである。だからこういう本が出ることになる。上記のような監査人のコメントは「作業を確実に実行する」という点を強調しているに過ぎないが、これについては事務処理ミスをなくす上では個人技能を重視しすぎており、確実性は低いらしい。哀れ会計士。

著者は内部統制のベテランでもなければ監査人でもない。工学系でヒューマンエラーを研究している人である。

ITが発達すると本当に人間がやらねばならない判断だけを人間が行うことになるため、逆に人間の判断ミスが自動的に処理されて大きな事故に発展することがある。飛行機のオートパイロットは確かに確実かもしれないが、かえってパイロットが適度な緊張感をなくしたり、コンピュータの判断と人間の判断とが齟齬を起こすことがあるので、いまは人間の判断を優先するようになっているという話を聞いた事がある。事務ミスも同様だ。人間が本来行うべき処理をサボると、とんでもない不正が横行する余地を残す。

事故に至るのは後戻りできない状態になったときに事故に至るので、後戻りできない前兆に至る前に異常を検知する能力が組織に必要であるという。やり直しが効く範囲で異常に気づくチャンスを与えることがミス対策の最大の要点らしい。そしてそういった異常検知手段は定着するにつれて「文化」を形成するといっている。

  • データを直ぐに使わないのなら、いつでも使えるようにしておく必要がある
  • 計算は可視化することでミスを防ぐ
  • 品質保証の主体はトレーサビリティ

などは、経理業務にも通じる話だろう。

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