監査の限界

2011年3月6日 | By 縄田 直治 | Filed in: 監査手続.

監査は監査を受ける会社の決算に対する誠実さと監査人に対する協力とがあって漸く成立する。この二つの条件が成り立たない場合、監査の遂行は著しく困難になる。例えば、会社自らが不正を働く場合や、監査に必要な証拠の提示をしない場合などが考えられるが、こういうケースを監査の限界という。

監査の限界とは裏返せば監査人が持っている権限の限界でもある。監査人は税務調査における反面調査のような取引先を訪問して裏づけとなる証拠を得ることはできないし、資金の行方を追うために、会社の銀行口座以外の口座まで追跡することはできない。あるいは会社側が書類の山を提示して、「これで全部出しましたので、必要なものは適当に探してください。」となるとお手上げである。

先日、とある講演を聴いていたら、監査人がこの監査の限界という言葉をやや広く(手前勝手に)使っているという。

その内容とは、上記の権限の限界を1とすれば、

2.手続の限界

3.能力の限界

4.姿勢の限界

という意味が含まれている。

手続の限界とは、例えば売掛金の残高確認によって得られる証拠力は、取引先と会社とが結託していた場合には何の意味も持たなくなるというような場合である。内部証拠より外部証拠のほうが相対的な証拠力が強いとされているが、この強い証拠が信頼が置けないとなると、ことは大変である。つまり単に他の証拠を得ればよいということではなく証拠に疑いを抱くとは会社が作為している可能性があるということになる。不正の疑いは常に持たねばならないが、いったん不正の疑いを持ってしまうと証拠に対する信頼が置けないので、監査が成立しないのだ。意見不表明だ。

能力の限界とは、監査人の持つスキルの問題である。例えばコンピュータを使って複雑な計算をしているような場合には、その計算ロジックが正しいことを検証することは監査人には通常困難である。そこには計算そのものが正しいものであるかどうかという観点と正しくプログラムされているかという観点が含まれるため、システムの専門家と計算(例えばデリバティブなど)の専門家を関与させることで、能力の限界を補足しなければならない。

姿勢の限界とは、職業的懐疑心を保持して正当な注意を払うことを懈怠することである。これは監査人としての資質の限界とも言えるだろう。

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