連結と個別を分離した議論

2010年7月3日 | By 縄田 直治 | Filed in: 開示制度.

IFRSの導入に当たって個別財務諸表に対してIFRSを適用すべきかどうかの議論がとりあえず棚上げされ、連結財務諸表のみを対象として議論されることになった。

個別財務諸表におけるIFRS適用に当たっては賛否両論あるが概括整理すると以下のようになる。

  • 賛成論
    連結決算をする上でその作成基礎である個別決算が揃っていなければ、連結決算プロセスが煩雑且つ作業負荷を増す。
    連結を作成していない会社と作成している会社との比較可能性が損なわれる。
  • 反対論
    上場していない相対的に中小規模の会社や国際的に活動していない会社にIFRSを求めること自体がナンセンス。
    税務会計との乖離が大きく二重帳簿による管理が強いられる。

議論は平行線だが、元々この議論に当たっては以下の概念整理を図る必要がないだろうか。

  1. 連結財務諸表を開示する前提で提出会社の個別財務諸表を開示する意義
  2. IFRSの目的と各国会計制度(本邦であれば会社計算規則や税務会計基準)の目的との違い
  3. IFRS規準が決算及び業務に与える影響

世界各国を見ても日本のように連結個別の双方を開示させ、しかも個別決算に監査報告まで求めている事例は珍しい。さらに監査報告は会社法開示と金融商品取引法の開示の両方である。

こうなったのも歴史的経緯からなのだろうか。
元々の日本の開示制度が商法計算規定による決算の存在を前提とした財務情報に、投資家保護に必要な補足を加えたものを有価証券報告書で開示させる、つまり債権者保護のための配当可能利益計算を前提とした決算がまずあり、証券取引法はそれを開示させつつ必要な情報を補足させるという開示制度の立て付けがうまく調和していた時代があった。
その後、連結決算が開示されるようになったときも、有価証券報告書提出から一月以内に提出が求められる「添付書類」に過ぎなかったため、主役はあくまでも個別決算であった。
しかし連結財務諸表が主となって以来、投資家にとってのリスク開示が主たる目的となり、個別決算は連結の内訳情報としての意味(但しセグメント情報がその本来の目的を有している。)と、配当可能利益を「注記する」以上の意味はなくなったといえるだろう。この時点でもまだ商法は債権者保護を前提とした配当可能利益計算に主たる目的を置いていたし、課税所得計算の基礎であった。
そしてこのときに、証券取引法による開示制度は、商取引上の権利関係の安定に寄与する個別決算から訣別し分配可能利益(社会的分配としての税金計算の基礎となる課税所得を含む)計算を商法に委ね、証券取引におけるリスク情報の算定目的としての決算と開示の充実に舵を切った。
つまり連結決算と個別決算とは、そもそもの計算目的が異なるので、両者の計算方式に違いがあっても全く構わないものとなったのである。ただ両者の基準に差異があってはならないのが取引の認識と測定の部分である。この時点で両者に違いがあると完全な二重帳簿を強いられることになる。また取引の認識測定で税務と会計とで考えが異なるというのも変な話だ。

この際だからIFRSの受け入れを機に、リスク情報の開示としての決算は連結財務諸表とし、個別決算は税務規準を前提とし分配可能利益計算に特化してはどうなのか。確定決算主義により税務が会計を縛ってしまう逆基準性の問題も旨く解決が図られないだろうか。もともとの議論として、経営の結果としての成果配分の基礎となる配当可能利益に将来の期待値を多分に織り込んだ決算値を用いることには、批判も多いところである。

会社法は本来の目的であるところの法による商取引の安定の確保に焦点を置き、法人格間の権利義務関係の調整のための会計と割り切って、連結計算書類は参考情報にした方がよい。そして株主総会で開示されるべきは、「適正に作成された決算」であればよく、その内容は公正な会計慣行と規準とに委ねれば、良識ある会社は有価証券報告書に記載される情報を株主に説明することになろう。

会計制度が国家から離れて作られるようになるというときに、国の利益を守るべき会社法や税法は、その本来の役割を見直して、原点に回帰する必要はないのだろうか。

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