発見的統制と予防的統制

2008年2月2日 | By 縄田 直治 | Filed in: リスク対応と統制手続, 監査会計用語.

キーコントロールを識別するに当たっての一つの観点として、発見的統制と、予防的統制という考え方がある。

発見的統制とは、財務報告に重大な虚偽表示をもたらす不正や誤謬を文字通り出口までの過程の要所要所で発見して対処是正することを意図した統制手続のことである。

一方、予防的統制とは財務報告に重大な虚偽表示をもたらす不正や誤謬が、そもそも財務報告に関係し影響する過程の中に入らないように、未然に防ごうとする統制手続のことである。

何(不正や誤謬の原因となる事象)を発見し防止するのかということを念頭に置かないで、分類することが自己目的化してしまい、「これは発見だ、いやいや予防だ」という不毛な議論をしても仕方がない。ある統制手続が、発見か予防かどちらに帰属するかを客観的に分類することにはあまり意味がない。

防止・発見の分類は、統制手続が何を意図して設計導入されているかという主観的問題であって、解釈によってどちらにも取ることができるからである。むしろ、意図した機能(リスクの軽減)をどのように果たしているか判断し、結果的に想定した不正や誤謬を防止するよう設計され運用しているのであればそれは予防的統制であり、他方、それらで防止されなかった不正や誤謬を発見することを目指して設計運用されていれば、発見的統制であるという整理になる。あくまで「虚偽表示をもたらす原因となるリスク」を基軸にして議論する。財務報告に至るプロセスは段階的なものであるから、前工程での発見的統制は、次工程での予防的統制であるという見方もあろう。

発見的統制と予防的統制にはそれぞれ一長一短がある。エラーなどの確実に取り除くという意味では、発見的統制は個々に対処可能という点で予防的統制よりも強力な統制手続であると言われている。とはいえ、発見的統制は効率性を考えれば全数チェックをするわけにいかないから、どうしても漏れが発生する可能性は否定できない。
発見的統制の適用範囲は広げるほどコストアップに繋がるので拡大にも限界がある。それは、あらかじめ発見過程までに「ほぼ」適正なデータが流れていることを保証する予防的統制によって補完されていると考えねばならないだろう。

では、予防的統制を予め設定しておけば、川下へのデータは全て適正なものになるはずだという前提を置けるだろうか。答えは否である。
取引には例外もあるし、想定していない事態は必ず発生するし、制度や手続には必ず抜け道があることを考えれば、完璧な統制は存在しないのだ。
また予防的統制をあまりガチガチに設計すると、業務が回らなくなったり、却って統制が機能しなくなるという問題が生ずることは経験的に誰でも知っている。例えばシステムのパスワードの複雑さを増したために、記憶できなくなって付箋に書いてディスプレイに貼っておくといった本末転倒な話がその典型だ。
業務効率と統制目的達成とを掛け合わせて最も効果の高くなるよう両立が必要である。

キーコントロールの識別に当たっては、まず上記のように、両者の統制は単独で機能するのではなく相互補完しあって全体として機能(想定リスクを軽減)している点を共通理解とすることが肝要である。

次に、「財務報告に虚偽表示をもたらす原因となる事象」を明確にすることが最も肝心である。これは「人間が失敗する」と考えるのではなく、人間の行動がもたらす結果おこる事象として表現する。例えば、「(人が)画面に投入する数値を誤る」と言わず「画面に投入された数値と原票の数値が一致しない」と表現する。一致させることが目的であり、人に帰責させるのは統制手段の一つに過ぎない。

その上で、まず「一致しないままデータが流れてしまったときにどうやって発見するか」ということを先に考える。キーコントロール識別のアプローチとしては、最終的に虚偽表示をもたらす原因事象が発見されればよいのだから、発見的統制を優先的に考慮する。

そして発見的統制が十分に機能し、「財務報告に虚偽表示をもたらす原因となる事象」を発見できていれば、次に考えるのは予防的統制により発見的統制の範囲を軽減することである。予防的統制が効率的に機能する限り発見的統制は範囲を限定できる。

予防的統制の導入効果   発見的統制削減のリスク増分
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予防的統制の導入コスト   発見的統制の削減コスト

もう一つ忘れてはならないのは、統制は「合理的保証」を求めているのであって、完全な保証ではない。すなわち発見的統制で発見されなければ最終的に財務諸表の虚偽表示となってもそれが「重大な」虚偽表示でないことが保証されればよい。つまり上の式の均衡点が最適解ではなく、制約条件として、あくまでも経営全体の目的のなかから内部統制にかけられるコストという観点が加わるのである。

かけられる最大のコスト>予防的統制の導入コスト+発見的統制の削減コスト

この考え方は、新規の情報技術投資をする際の効果測定の考え方に通ずるものがあろうが、「例外対処」と「業務の標準化」
というところがキーワードになる。発見的統制はより例外対処向の仕様であり、予防的統制は業務の標準化によって可能になる。

以下メモ

訂正(是正)統制は、検出された誤謬などの修正をし再発防止策を講ずる行為である。
これは当然の行為であって統制ではないという考えもある。

ある発見的統制が牽制効果となって予防的統制として機能する可能性もあるが、
その効果を立証できないのでそれを予防的統制と主張することは無理があるかもしれない。

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