税効果会計における繰越欠損金の扱い

2007年10月13日 | By 縄田 直治 | Filed in: 制度会計.

税効果会計は、損益計算書の税引前利益に対する税金費用をほぼ比例的に実効税率で計上させるために、法人税等を調整する形で正味の税金費用を計上させる計算技術である。本来は、優遇税制などによって納税が先送り(後払い)されることに対して税金費用は既に発生しているものとして損益計算書上で認識し納税を繰延べた金額を税金負債として計上するものだ。

しかし、日本では優遇税制のメリット以上に、課税計算における債権債務確定主義が影響して会計上見越し計上した費用が損金とされないケースが多いため、実質的に前払いとなった税金を繰延税金「資産」として計上されるケースが圧倒的に多い。したがって、本当にこの「前払い」の効果があるかどうかが繰延税金資産の評価の問題として現れてくるため、実務ではそれをスケジューリングという方法によって検証することになる。

税効果会計においては、将来減算一時差異が何時解消されるかというスケジューリングを行う際に、繰越欠損金についても同様に扱えることになっている。但し、将来において繰越欠損金を解消できるだけの十分な所得が見込まれる場合だけに、税効果が認められる。この「将来」については、日本公認会計士協会監査委員会報告第66号では以下のような要旨が記載されている。

  • 過去連続(概ね3年以上)して重要な欠損金を計上、債務超過:
    将来の所得を見積もることはできない⇒税効果が取れない
  • 重要な繰越欠損金がある会社:
    将来の所得を見積ることは困難⇒翌1年の確実に見込める範囲に限って税効果が認められる

各々の区分で何処まで見るかには当然に経営者による判断が加わるが、実務においてはこの欠損金に対する税効果をどう考えるかは難しい問題である。

例えば次のような状況を考えてみる。

  • 当期末の繰越欠損金:300
  • 来期以降3年間の各年度の所得見込み:100×3年
  • 実効税率:40%
項目 当期末 +1期 +2期 +3期
課税所得 ?? 100 100 100
欠損金控除 0 (100) (100) (100)
法人税等 0 0 0 0
繰越欠損金 300 200 100 0

以上のような当期末の状況における繰越欠損金300に対する税効果をどう考えるか。

おそらく以下の2つに大きく分かれるだろう。

項目 当期末 +1期 +2期 +3期
《考え方1》        
法人税等調整額 120 (40) (40) (40)
繰延税金資産 120 80 40 0
《考え方2》        
法人税等調整額 0 0 0 0
繰延税金資産 0 0 0 0

考え方1は、繰越欠損金を将来減算一時差異と同様に捉え将来の節税効果を見越して税効果資産を計上し、税金費用をその効果の及ぶ期に配分しようとするものである。つまり将来年度においては、毎期の課税所得100に対する法人税等40が本来ならば発生するはずなのだが繰越欠損金の影響があるため納税額がゼロになる。
ゆえに税金費用が繰越欠損金控除前の課税所得(すなわち、これとほぼ比例的関係にある税引前損益)に対応するよう40の税金費用を税効果資産の取崩によって計上する。この考えは、当期以前に発生した繰越欠損金は、本来は税金を還付されるべきところ制度上は欠損金還付はないので会計上で将来の節税を先取りし、税引前損益と税金費用をなるべく比例的に対応させようとする考え方だ。だが「将来の所得」という神のみぞ知る数字に資産の根拠をおいているという点で、その確実性に対し常に疑問が付きまとう。

考え方2は、繰越欠損金による将来の節税効果は、あくまでも実際の納税計算上で発現されるものであって、税引前損益に対する節税効果の影響を排除しようとする考え方だ。つまり過誤納による還付以外の還付制度がない限り、税金費用がマイナスになるはずはなく、欠損金を計上するような状況では実際の納税時点にならないとその節税効果も不透明であるという考え方が反映されている。
この考え方は将来における税引前利益と税金費用との比例的対応をとることを諦め、専ら不確実な税効果資産は計上しないという態度である。
とはいえ客観的に数字を算出できるというメリットがある。

個人的には2の考え方を指示しているが、66号の記載を読む限りは、種々の条件付ながらも1の考え方が認められている。

ここで判断のポイントになるのは、当期末の繰越欠損金の発生原因である。設例ではあえて当期の所得を??としているが、例えば、業績のよい会社が過去のリストラ処理などによる減損処理が当期に減算認容されることで発生した欠損金であれば、それを将来の所得によって解消していくことができると考えられよう。一方、業績の悪化によって発生した欠損金であれば、それを将来の所得で解消しようと考えたとしても、それが確実だと主張することには無理があろう。
その辺りの判断基準を示したのが上記の66号である。

以下は66号の解釈に対する私見である。

税引前利益を計上している会社(つまり納税ポジションにある会社)が、多額な将来減算一時差異を計上した場合に発生する相対的に大きな課税所得に対応する法人税等を調整する限りにおいては、将来の確実な所得見込みの範囲で「先払い税金の調整計算」という理屈が成り立つのであろう。

同様に、過去に発生した多額な将来減算一時差異を過去のスケジューリング通りに減算した場合に発生した繰越欠損金については、将来の所得(が確実に見込まれる範囲)に対する減算効果を考慮することもできる。但し、過去のスケジューリングの際に予測した期間の所得が、当期において下方修正される場合には、相応の繰延税金資産を取り崩すべきであり、新たにスケジューリング期間を追加すべきではない。
これは過去の時点において解消可能と判断された額が一時差異として計上されていたはずであり、解消できなかった以上はそれを修正すべきとの考えによる。

上記はいずれも、法人税等計上額を超える法人税等調整額が計上されることはないはずである(後者においても、繰延税金資産の根拠が将来減算一時差異から繰越欠損金に振り替わるだけなので、法人税等調整額には影響しない。)。

そして、繰越欠損金に対して将来の所得を見込んで計上した繰延税金資産は、スケジューリングした将来期が到来した時点で、当初見込んだ所得が発生していなければ、相応の繰延税金資産を取崩していくべきで、そこから更に新たな将来の所得を見込んで繰延税金資産を計上すべきではない。特に翌期さらに繰越欠損金が発生した場合には、前期の繰延税金資産は直ちに取り崩すとともに、来期の所得を当て込んだ税金資産の計上は見送るべきであろう。

なぜなら、将来減算一時差異と繰越欠損金は将来税金の削減効果という点では同じ性格を持つものの、これによって計上される税効果資産は将来事象を根拠としたもので、本来は資産として計上されるべきものではないからである。ただ、前者は納税キャッシュフローがあるがゆえに損益計算上の期間配分の合理性を根拠として資産としての性格が消極的に付与されているに過ぎないもので、後者に至っては「将来のキャッシュフローを生み出す期待」以上のものは何もない会計原則が計上を禁止している未実現利益だからである。

そのような会社は繰越欠損金が一掃され、法人税等が発生する状態(タックスポジション)になったときに、改めて法人税等の範囲での法人税等調整額を検討すべきであろう。あえて当期に税効果資産を認識しても、翌期に所得が出なければ取崩すこととなり、翌期に所得が発生しても繰越欠損金と相殺され法人税等が発生しないため、税効果資産の取崩による税金費用の発生と税引前利益が対応したとしても、逆に当期の利益(還付の計上)
としての説明が成り立たないからである。

要約すれば、

  1. 当期の法人税等は、将来分の前払いであると明らかにできる部分だけ、支出の費用認識を繰延べることが認められる。
  2. 将来の税金削減効果は、実現の要件を満たさない。欠損金に対する税効果は発生時のスケジューリング範囲を上限としなければ、
    税金費用ではなく税金収益を計上することになる。
  3. 課税を繰延べられた税制優遇措置による税額は当期に繰延税金負債として計上しなければならない。
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